国保逃れ規制で1万1610人が資格喪失|自分のマイクロ法人は大丈夫か

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  • 賦課限度額の推移表に令和8年度(113万円・平成12年度から+53万円)を追加し、本文を令和8年度の内訳(医療67万+後期高齢者支援金26万+介護17万+新設の子ども・子育て支援金分3万)に更新。ja/en/zh/ko の4言語に反映。

2026年9月14日、厚生労働省が「国保逃れ」への規制を一段強めました。会費を払って法人の名ばかり役員にしてもらい、安い保険料で健康保険に入る——この仕組みを使っていた38社・1万1,610人が、社会保険の資格を失って国民健康保険に戻されています。過去にさかのぼって保険料を請求される可能性も報じられました。ただ、個人事業主の読者にとって本当に知りたいのは事件の顛末ではないはずです。自分で作ったマイクロ法人は、これで危なくなったのか。結論を先に言えば、今回の通知が狙い撃ちにしているのは「会費ビジネス」であって、実態のある自前の法人ではありません。ただし通知が書いた判断基準は、あなたの法人にもそのまま当てはまります。どこに線が引かれたのかを、通知の原文から整理します。

この記事の要点

① 2026年9月14日、厚労省が通知を2本発出。3月の通知を改正して抜け道を塞ぎ、さらに「役員ではなく短時間の正社員として雇う」型への通知を新設した。
② 決め手は「役員報酬より高い会費等を払っているか」。払っていれば原則、業務の対価とは認められず被保険者資格なし。
③ 会費等は名称を問わない——勉強費・広告費・掲載料・参加料・コンサルタント料・協力金・委託費はすべて会費等として扱う。
④ 資格が消えると国民健康保険・国民年金にさかのぼって加入し直すことになり、厚生年金の記録も失われる。
⑤ 実態のある自前のマイクロ法人は今回の対象外。ただし「経営に参画しているか」「報酬が業務の対価か」という2つの基準は同じように見られる。

社会保険料

何が起きたのか——9月14日に通知が2本出た

そもそも「国保逃れ」と呼ばれているのは、次のような仕組みです。個人事業主やフリーランスが、社会保険料の削減をうたう事業者の法人に形だけの役員として就任する。法人からは月数万円の役員報酬が出るので、書類のうえでは「法人に使用される者」になり、健康保険・厚生年金の被保険者になれる。保険料は役員報酬(標準報酬月額)で決まるので、所得がいくら大きくても最低水準ですむ。その代わり、本人は法人へ役員報酬を上回る会費を払う——という構図です。

厚労省がこの構図に最初に踏み込んだのは2026年3月18日の通知です[厚生労働省]。通知は冒頭で、こうした事業所に役員として使われている人は「本来国民健康保険及び国民年金の適用を受けるべき者であるにもかかわらず通常よりも低い保険料で健康保険等の適用を受けている可能性がある」と明記しました。そして9月14日、その通知を改正したものと、新しい通知のあわせて2本が発出されています。

通知日付何を扱うか
保保発0318第1号2026年3月18日法人の役員である個人事業主等の被保険者資格の取扱い(最初の明確化)
保保発0914第1号2026年9月14日上の通知の一部改正。会費を報酬より安くする回避策などを塞いだ
保保発0914第2号2026年9月14日新設。役員ではなく「勤務時間が極端に短い正社員」として雇う型を扱う

同じ日に公表された調査結果では、この仕組みを事業として手がけていた事業者が全国で38社、利用者は1万1,610人にのぼりました。すでに行政指導により社会保険から国民健康保険へ資格が変更されており、疑いのある7社は調査が続いています。厚労省は利用者に対し、過去にさかのぼって保険料の支払いを求める可能性があるとしています[共同通信]。

通知が引いた線——見られるのは「対価」と「経営参画」の2つだけ

ここが記事の本題です。通知は、法人の役員が健康保険・厚生年金の被保険者になれるかどうかを、次の2つの基準で総合的に判断すると書いています。特別な新ルールではなく、もともとの原則を文章にしたものです。

通知が示した2つの基準

① その業務が、実態において法人の経営に対する参画を内容とする経常的な労務の提供であるか

② その報酬が、その業務の対価として法人から経常的に支払われるものであるか

※どちらも「実態を踏まえ総合的に判断する」とされています。肩書きや契約書の文言ではなく、実際に何をしていて、いくら受け取っているかで決まります。

②の線:報酬より高い会費を払っていたらアウト

いちばんはっきりしているのがこちらです。通知は「個人事業主等が法人に対して、役員としての報酬を上回る額の会費等を支払っている場合は、実質的に業務の対価に見合った報酬を受けているものとは言えず、原則として、業務の対価としての経常的な支払いがあるものとは認められない」としています。差引がマイナスなら、それは給料ではなく参加費だ、という判定です。

9月14日の改正で、ここに2つの穴埋めが入りました。

  • 会費を報酬より安くしても逃げられない。会費が報酬と同額または下回っていても、会費が報酬の多くを占めていて、活動の中身が役員同士の相互互助的な連携にすぎないなら、常用的な使用関係があるとは認められない可能性がある——と追記されました。「報酬5万円・会費4万9,000円」のような設計を封じる文言です。
  • 別会社に払わせても同じ。関連法人へ会費を払わせていても、その支払いが役員になるための実質的な条件になっていて、法人間で資金を動かしているだけなら、同一の法人として扱う——と3月の時点から書かれています。
「会費」という名前でなければセーフ、ではない

通知は会費等の範囲をわざわざ注記しています。勉強費・広告費・掲載料・参加料・コンサルタント料・協力金・委託費など、名称の如何を問わない。請求書の品目を書き換えるだけの対策は通用しません。

①の線:会議に出て意見を言うだけでは経営参画ではない

もう一方の基準は、業務の中身です。通知は、次のいずれかに当たる場合は原則として経営参画にはあたらないと列挙しています。

  • 知識向上のためのアンケートへの回答や勉強会への参加など、実態が単なる自己研さんにすぎないもの
  • 単なる活動報告や情報共有など、具体的な指揮監督や権限の行使にあたらないもの
  • 法人の事業の紹介について単なる協力やお願いにとどまり、労務を提供する義務を負っていないもの
  • 役員相互間の研さん、業務の互助的な紹介など、役員同士の相互互助的な連携にすぎないもの(9月14日に追加)

逆に、経営参画かどうかを見るときの着眼点も具体的に書かれています。指揮命令する従業員や他の役員がいるか/担当業務に決裁権があるか/役員会に出て連絡調整や報告をしているか/会議以外の業務があり、そのためにどれくらい出勤しているか。ここは自前の法人を持つ人にとっても、そのままチェック項目になります。

新設された3本目:「週に数時間だけの正社員」も同じ扱い

9月14日に新しく出たのが、役員ではなく従業員として雇う型への通知です[厚生労働省]。個人事業主を「勤務時間が極端に短い正規型の労働者」として雇い、会費等の名目で報酬を上回る額を払わせる——役員という入口が塞がれたので、従業員という入口に移った形です。

この通知は、①報酬を上回る会費等を払っている、②業務が経常的な労務の提供と認められない、の両方に該当すれば原則として被保険者資格なし、どちらか一方なら実態を個別に判断する、としています。②では「1週間または1月間の労働時間が常態的に極端に短い」ことが明示的に挙げられました。さらに、自分の事業を第三者に委託したうえで、その第三者に雇われる形をとり、実質的に自分が払った委託費が報酬になっているケースも名指しで否定されています。迂回の経路をあらかじめ潰しにきた通知です。

自分で作ったマイクロ法人は大丈夫か

ここが本題です。結論から書くと、今回の2本の通知が対象にしているのは「会費ビジネス」であって、自分で設立して自分で事業を回している法人ではありません。通知はどちらも、冒頭で「社会保険料の削減を謳い」「会費等と称して報酬を上回る額を支払わせている事業所」という前提を明記しています。自分の法人に会費を払っている人はいませんから、②の線(報酬より高い会費)には最初から触れません。

とはいえ油断はできません。①の線——経営に参画する経常的な労務の提供があるか——は、法人の代表者であっても見られる基準だからです。売上がほとんど立っていない、取引も帳簿も実質的に動いていない、という法人は、会費の有無にかかわらず「法人に使用されている実態がない」と判断される余地があります。通知は、実態がないことが確認された場合には資格喪失の届出を提出させて被保険者資格を喪失させることまで書いています。

今回の通知が狙っているもの

  • 他人の法人に会費を払って役員にしてもらう
  • 役員報酬より会費のほうが高い
  • やることは勉強会への参加や情報共有だけ
  • 週に数時間だけの「正社員」として雇われる
  • 自分の事業を委託した先に雇われる形をとる

今回の通知の射程外(ただし実態は要る)

  • 自分で設立し、自分が代表を務める法人
  • 法人として売上・取引・帳簿・契約がある
  • 個人事業とは別の事業を法人でやっている
  • 役員報酬を低く設定している(金額の低さ自体は違反ではない)

役員報酬を最低等級になるよう低く設定すること自体は、今回の通知でも否定されていません。問題にされているのは報酬の低さではなく、報酬を上回る会費の存在と、業務の実質の乏しさです。設計の考え方はマイクロ法人と社会保険料で整理しています。

通知の基準で作ったセルフチェック
  • 法人に対して、役員報酬を上回る会費・参加料・広告費・コンサルタント料などを払っていないか
  • 法人として、契約・請求・入金の記録が継続的にあるか(売上ゼロの年が続いていないか)
  • 役員としての仕事が、勉強会への参加や情報共有だけになっていないか
  • 個人事業とは別の事業になっているか(同じ仕事を書類上で分けただけになっていないか)
  • 議事録・帳簿・取引記録など、実態を後から示せる書類が残っているか

※最初の1つに当てはまる人は、契約の形をすぐに専門家と確認してください。残り4つは、実態を説明できる状態を保つための備えです。

資格を失うと、何がどうなるのか

被保険者資格を遡って失うと、影響は保険料だけでは終わりません。整理しておきます。

項目どうなるか
健康保険資格喪失。さかのぼって国民健康保険に加入し直すことになる。所得連動なので、所得の大きい人ほど負担は跳ね上がる
その間の医療費健保が負担していた分の精算が必要になる場合がある。加入し直した国保へあらためて療養費を請求する手続きになるため、窓口での確認が要る
年金厚生年金の被保険者期間が消え、国民年金(第1号)としてさかのぼって納めることになる。将来の老齢厚生年金の上乗せも失われる
払った会費制度上、戻ってくる保証はない。事業者との民事の問題になる

ここで押さえておきたいのは、1万1,610人の多くは「合法的な節約術」として勧誘された利用者だということです。厚労省が3月に判断基準を示すまで、行政の側も明確な線を引いていませんでした。それでも負担を負うのは利用者本人です。勧誘の文句がどれだけ整っていても、制度の判断は後から実態で行われ、遡って適用される——今回いちばん学ぶべきはここだと思います。消えた節税手法の歴史は消えた節税スキーム列伝にまとめています。

そもそも、なぜ1万人が乗ったのか

批判で終わらせないために、需要の側も見ておきます。個人事業主の国民健康保険は前年の所得に連動し、扶養という考え方がないので家族の人数分だけ均等割が積み上がります。そして上限額は、ほぼ毎年引き上げられてきました。

年度賦課限度額(年額)平成12年度からの増加
平成12年度60万円—
平成22年度73万円+13万円
令和2年度99万円+39万円
令和7年度109万円+49万円
令和8年度113万円+53万円

厚労省の資料によれば、令和7年度の賦課限度額は109万円(医療分92万円+介護分17万円)でした[厚生労働省・第205回社会保障審議会医療保険部会]。令和8年度はさらに113万円——医療分67万円+後期高齢者支援金分26万円+介護分17万円に、新設された子ども・子育て支援金分3万円が乗ります[新宿区]。平成12年度の60万円からは、26年で53万円増えた計算です。同じ資料は、引き上げの考え方として「賦課限度額超過世帯割合が1.5%に近づくように段階的に引き上げる」と説明しています。つまり上限に当たる世帯を一定割合まで増やす方向で設計されているということです。制度としての説明は成り立ちますが、上限に張り付く側から見れば、稼ぐほど保険料が積み上がる感覚は避けられません。

月8万円の会費を払ってでも安くなる、という計算が1万人に成立した背景には、この負担の重さがあります。仕組みを塞ぐこと自体は、正直に国保を払っている人との公平という意味で筋が通っています。ただ、塞いだだけでは需要は消えません。国保の重さそのものへの手当てがないと、次の抜け道が出てくるだけだろう、というのが率直なところです。

そのうえで、いま使える正攻法を挙げておきます。いずれも所得を圧縮して国保料そのものを下げる方向の手段です。

  • 青色申告特別控除65万円を取り切る。国保料は総所得金額等をもとに計算されるので、控除がそのまま保険料に効きます(青色申告と白色申告)。
  • 小規模企業共済の掛金は全額が所得控除。掛金は月1,000円〜7万円で選べます(小規模企業共済の節税)。
  • iDeCoの掛金も全額が所得控除(iDeCoの節税効果)。
  • 自治体によっては所得が減ったときの減免がある。前年より大きく所得が落ちた年は、市区町村の国保窓口に必ず相談を(計算のしくみは国民健康保険の計算)。
  • 業種によっては国民健康保険組合(文芸・美術、医師、建設など)が選択肢になる。保険料が定額の組合もあります。

自分の市区町村の国保料が全国的にどのあたりかは、国保料ランキングまとめで確認できます。

今日やること

今日やること

  1. いま社会保険に入っている法人に対して、会費・参加料・広告費・コンサルタント料などを払っていないか、直近1年の口座の出金を確認する
  2. 払っている場合は、その金額と役員報酬(または給与)の額を並べて比べる。会費のほうが多ければ、年金事務所か社会保険労務士にすぐ相談する
  3. 自前の法人を持っている人は、直近の売上・契約・議事録が残っているかを確認し、足りていなければ今期から記録を整える

よくある質問

自分で設立したマイクロ法人も、今回の規制の対象になりますか。

今回の2本の通知が対象としているのは、社会保険料の削減をうたって個人事業主を形式的な役員や短時間の労働者にし、報酬を上回る会費等を支払わせている事業所です。自分で設立して自分が代表を務め、法人として売上・取引・帳簿の実態がある法人は、この射程には入りません。ただし「経営に参画する経常的な労務の提供があるか」という基準は法人の役員全般に及ぶため、実態のない休眠状態の法人は会費の有無にかかわらず資格を否定される余地があります。

役員報酬を月4万5,000円などと低く設定しているだけで問題になりますか。

報酬の低さ自体は今回の通知で否定されていません。通知が問題にしているのは、報酬を上回る会費等を法人へ支払っていること(対価性がない)と、業務の実質が自己研さんや情報共有にとどまっていること(経営参画といえない)の2点です。実態のある事業を営み、経営判断を自分で行っている代表者であれば、報酬額が低いこと自体が資格喪失の理由になるものではありません。

「会費」ではなく「広告費」や「業務委託料」という名目なら大丈夫ですか。

大丈夫ではありません。通知は会費等の範囲を注記で示しており、勉強費・広告費・掲載料・参加料・コンサルタント料・協力金・委託費など、名称の如何を問わないとしています。また、関連法人へ支払わせている場合でも、その支払いが役員になるための実質的な条件になっていて、法人間で資金を移動させているにすぎないと認められる場合は、同一の法人として扱うとされています。

すでに利用していた場合、過去にさかのぼって請求されますか。

報道では、厚生労働省が利用者に対し、国民健康保険と国民年金の保険料をさかのぼって請求する方針と伝えられています。健康保険の資格が遡って失われると、その間に健保が負担した医療費の精算や、厚生年金期間が国民年金期間に置き換わることによる将来の年金額への影響も生じます。個別の取扱いは加入していた保険者と年金事務所によって異なるため、心当たりがある場合は自分から確認してください。

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最終更新:2026年09月23日 / 公開日:2026年09月15日 / 執筆:みんなの税金 編集部

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