自家栽培のさつま芋を、冬の3か月だけ干し芋に加工して売る農家。消費税の簡易課税で「農業=第二種事業(みなし仕入率80%)」として申告したところ、税務署の答えは「それは製造業=第三種事業(70%)です」——更正処分と過少申告加算税。国税不服審判所も税務署を支持しました。分かれ目は、敷地内の作業小屋と、冬だけ雇う数名の従業員。税務調査ファイルの第8回は、6次産業化に踏み出した農家や、モノを加工して売るすべての事業者に効いてくる「事業区分」の裁決を読みます。
事案:さつま芋農家の干し芋づくり
さつま芋・米・飼料米を栽培する個人の農家です。3月に種芋を準備して10月に収穫。収穫したさつま芋の一部は、11月下旬から翌年2月末までの約3か月、自宅敷地内の建物で干し芋に加工し、問屋に出荷していました。洗って、蒸して、皮をむいて、スライスして、ビニールハウスで7日ほど干す——昔ながらの製法です。
消費税は簡易課税を選択済み。確定申告では、干し芋の販売を「農業のうち飲食料品の譲渡」=第二種事業(みなし仕入率80%)として計算しました。
税務署は3年分をまとめて「干し芋の加工販売は製造業=第三種事業(みなし仕入率70%)」として更正し、過少申告加算税を賦課。農家は「建物は多用途で臨時の作業場にすぎない」「冬だけの従業員は常用ではない」と審査請求で争いましたが、棄却されました。
前提:みなし仕入率の10%は何を意味するか
簡易課税は、実際の仕入や経費を集計する代わりに、売上にかかる消費税に業種ごとの「みなし仕入率」を掛けて仕入控除を計算する制度です(基準期間の課税売上高5,000万円以下で選択可)。事業区分で納税額が直接変わります。
| 事業区分 | みなし仕入率 | 代表例 |
|---|---|---|
| 第一種 | 90% | 卸売業 |
| 第二種 | 80% | 小売業、農業・林業・漁業のうち飲食料品の譲渡 |
| 第三種 | 70% | 製造業、農業・林業・漁業(飲食料品の譲渡以外)、建設業 |
| 第四種 | 60% | 飲食店業など |
| 第五種 | 50% | サービス業・金融業など |
| 第六種 | 40% | 不動産業 |
「農業のうち飲食料品の譲渡」が第二種にあるのは、軽減税率が始まった令和元年10月からの改正です(それまで農業は一律第三種)。売る側の税率が8%に下がる一方で仕入は10%のものが多いため、みなし仕入率が10%引き上げられました。この農家が第二種を主張した背景には、この改正があります。栽培したさつま芋をそのまま売れば、間違いなく第二種です。
数字で見ます。干し芋の売上が税抜1,000万円なら、売上にかかる消費税は軽減税率8%で80万円。納税額は第二種なら80万円×(1−0.8)=16万円、第三種なら80万円×(1−0.7)=24万円。差は年8万円、3年分で24万円。ここに過少申告加算税と延滞税が乗ります。
物差しは「日本標準産業分類」だった
第三種の「製造業」に当たるかどうかは、消費税法の条文だけでは決まりません。国税庁の通達は、総務省の統計基準である「日本標準産業分類」の大分類を基礎に判定すると定めており、審判所もこの扱いを相当と認めました。
その産業分類には、農家の加工についてこう書かれています。
自家栽培の原材料を使った製造・加工
主として自家栽培した原材料を使って製造・加工する場合は農業の活動とする。買ってきた原料の加工なら最初から製造業。
作業所+専従の常用従業者
ただし、同一構内に工場・作業所とみられるものがあり、その製造活動に専従の常用従業者がいるときは、農業の活動としない=製造業。
つまり争いは「例外の2要件を満たすか」に絞られます。農家の反論と、審判所の認定はこうでした。
| 要件 | 農家の主張 | 審判所の認定 |
|---|---|---|
| 作業所等 | 多用途に使う建物で、干し芋の時期だけ使う臨時の作業場。機械が常置され半年以上使う建物だけが「作業所」のはず | ボイラーと電動ウインチが備え付けられ、芋洗機・スライス器具で加工作業を行い、3か月間は専ら加工に使用。作業所等に該当(「半年以上」は独自の見解として排斥) |
| 専従の常用従業者 | 加工時期の約3か月だけ雇う臨時の従業員。「常用」とは年に相当期間働く者のはず | 加工時期に合わせて数名を雇用し、加工作業にのみ従事させている以上、その期間中は専従の常用従業者に当たる(「3か月では足りない」も独自の見解として排斥) |
「臨時のつもり」「季節だけのつもり」という感覚は、どちらも通りませんでした。設備を備えた建物で、雇った人が加工だけをしている——その実態がある期間が存在すれば、例外の扉は開きます。
この裁決から持ち帰れること
この判断は干し芋に限りません。米農家の餅・味噌、果樹農家のジャム・ジュース、6次産業化のほぼ全部に同じ物差しが当たります。
| よくある理解 | 実際 |
|---|---|
| 「自分の畑の作物を加工して売るのは農業の延長」 | 原則はそのとおり。ただし敷地内に加工用の建物+加工専従の従業員がそろうと製造業(第三種)に変わります |
| 「冬の間だけの臨時雇いだから常用ではない」 | この裁決は約3か月の季節雇用でも「専従の常用従業者」と認定しました。雇用期間の短さは決め手になりません |
| 「事業区分は一度決めたらそのまま」 | 実態が変われば区分も変わります。設備投資や人の雇い入れをした年は、区分の見直しが必要です |
| 「区分を間違えても大した差ではない」 | みなし仕入率10%の差は、軽減税率8%の売上1,000万円で年8万円。数年分まとめて更正されると加算税・延滞税つきで返ってきます |
もうひとつ実務の急所を。複数の事業を営む場合、売上を事業区分ごとに区分して記帳していないと、そのうち最も低いみなし仕入率が全体に適用されます。この農家のように「栽培そのままの販売(第二種)」と「加工販売(第三種)」が並ぶ事業者こそ、売上の区分記帳が第二種の80%を守る条件になります。簡易課税と本則のどちらが得かという手前の判断は簡易課税と本則課税の比較で解説しています。
今日やること
- 自分の事業区分を「根拠つきで」言えるか確認する。簡易課税を使っているなら、国税庁タックスアンサーの事業区分表と日本標準産業分類で自分の事業を引き、なぜその区分なのかをメモに残す。
- 複数の事業があるなら、売上を区分ごとに分けて記帳する。区分していないと最も低いみなし仕入率で全体が計算されます。会計ソフトの補助科目や税区分で今日から分けられます。
- 加工場を建てた・加工要員を雇った年は、区分の変更を検討する。実態が変わった期から区分も変わります。放置すると数年分まとめての更正+加算税になります。判断に迷うなら税理士か税務署に事前に確認を。
ほかのアクションは手取りアップ・アクションリストへ。
よくある質問
Q. 事業区分の判定に納得できないときは争えますか。
A. 争えます。処分を知った日の翌日から3か月以内に再調査の請求または審査請求ができます。ただしこの裁決のように、事業区分は日本標準産業分類という客観的な基準に沿って判定されるため、「自分はこう解釈していた」という独自の見解は通りにくい領域です。事前の確認が最も安全です。
まとめ
- 自家栽培のさつま芋を干し芋に加工して売る事業は、農業(第二種・80%)でなく製造業(第三種・70%)と判断(令和7年9月8日裁決)
- 物差しは日本標準産業分類。敷地内の作業所と加工専従の常用従業者がそろうと製造業になる
- 約3か月の季節雇用でも「専従の常用従業者」と認定。「臨時のつもり」は通らない
- 売上が税抜1,000万円なら差は年8万円、3年分で24万円。ここに過少申告加算税と延滞税が乗る
- 売上を事業区分ごとに区分して記帳しないと、最も低いみなし仕入率が全体に適用
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参考リンク(出典)
本記事の事案は公的機関が匿名化して公表している資料に基づいています。国税不服審判所の裁決は著作権法13条3号により権利の目的とならず、同所ウェブサイトのコンテンツは「公共データ利用規約(第1.0版)」に準拠しています。
※ 本記事は一般的な情報提供を目的としています。事業区分の判定は事業の実態で変わります。実際の判断は税務署または税理士にご相談ください。













