iDeCoの一時金も、会社の退職金も、税金の上では同じ「退職所得」です。退職所得には退職所得控除という強力な非課税枠があり、うまく使えば税負担を大きく減らせます。ところが、iDeCoと退職金を近い時期に受け取ると控除が重複排除され、2回目の控除が削られて税金が増えます。さらに2026年(令和8年)1月から、iDeCoを先に受け取るときのルールが「5年」から「10年」へ変わりました。受け取る順番とタイミングで税額が変わるしくみを、3つのルールに整理します。
そもそも退職所得はなぜ税金が軽いのか
退職所得は、他の所得と分けて計算する分離課税で、次の2つの優遇があります[国税庁 No.1420]。
退職所得控除額
・勤続20年以下:40万円 × 勤続年数(最低80万円)
・勤続20年超:800万円 + 70万円 ×(勤続年数 − 20年)
控除を引いた残りをさらに半分にしてから課税するため、給与などに比べて税負担がかなり軽くなります。そしてiDeCo(確定拠出年金)の一時金も、この退職所得として扱われ、退職所得控除は「iDeCoの加入年数」で計算します。退職金そのものの基本は 退職金の税金 を参照してください。
問題は「退職所得控除の重複排除」
退職所得控除は勤続年数・加入年数が長いほど大きくなります。ところが、退職金とiDeCoの一時金を近い時期に2回受け取ると、それぞれの期間の重なった部分が排除され、2回目の退職所得控除が削られます。これが重複排除です。
2回の受け取りを一定期間あければ重複排除を避けられ、退職所得控除をそれぞれフルに使えます。必要な間隔は「どちらを先に受け取るか」で異なり、しかも2026年の改正で一部が長くなりました。
受け取り方で変わる「3つのルール」
重複排除の対象になるのは、後から受け取る退職所得の「前年以前◯年内」に前の受け取りがある場合です。この◯年が受け取りの組み合わせで変わります[財務省 令和7年度大綱]。
| 受け取りの組み合わせ | 対象期間 | 通称・改正 |
|---|---|---|
| ① 退職金 → 退職金(会社の退職金どうし) | 前年以前4年内 | 5年ルール(変更なし) |
| ② iDeCoを先 → あとで退職金 | 前年以前9年内 | 5年→10年ルール(2026年改正) |
| ③ 退職金を先 → あとでiDeCo | 前年以前19年内 | 19年ルール(変更なし) |
②の改正は令和8年(2026年)1月1日以後に支払を受ける退職金から適用されます。「iDeCoを先にもらってから退職金」という受け取り方は、従来5年あければよかったのが10年あけないと控除が重複排除されるようになりました。一方、③の19年ルール(退職金が先)は据え置きです。
2026年改正で何が変わったか(具体例)
もっとも影響を受けるのは、60代前半でiDeCoと退職金の両方を受け取る人です。
・2025年までに60歳でiDeCoを受給:旧「5年ルール」。5年あいているので重複排除されず、65歳の退職金でも退職所得控除をフルに使える。
・2026年以降に60歳でiDeCoを受給:新「10年ルール(前年以前9年内)」。間隔5年では重複排除の対象となり、65歳の退職金の退職所得控除が削られて税負担が増える。
つまり、これまで定番だった「iDeCoを先に一時金で受け取り、5年後に退職金」という節税の組み方が使いにくくなりました。iDeCoの所得控除メリットそのものは健在です(iDeCoの節税効果と申告手順)。
では、どう受け取ればいい?
控除をなるべく活かす方向
- iDeCoを先にするなら、退職金まで10年以上あける(退職を遅らせる、iDeCoを早めに一時金受給するなど)
- iDeCoは60〜75歳の間で受給開始できる。年金(公的年金等)の受け取りとも合わせて時期を設計
- 一時金と年金(分割)を併用し、退職所得と雑所得に振り分ける手も
無理な「完全分離」は狙いすぎない
- 退職金が先だと19年ルール。その後20年近くあけるのは現実には難しい
- 完全に分離できなくても、1/2課税の優遇は残る
- 勤続・加入年数や金額で最適解は変わる。必ず試算を
②の10年ルールは、令和8年1月1日以後に支払を受ける退職金が対象です。2025年12月31日までにiDeCoの一時金を受け取っていれば、旧「5年ルール(前年以前4年内)」で判定されます。受給時期が境目の人は、年内受給と翌年以降で税額が変わるため、早めの確認がおすすめです。
あわせて知っておきたい注意点
- 勤続5年以下の「短期退職手当等」は、退職所得控除を引いた残りのうち300万円を超える部分に1/2課税が使えません(役員等は5年以下で全額1/2不可)。
- 「退職所得の受給に関する申告書」を支払者に提出しないと、退職金から一律20.42%が源泉徴収されます(確定申告で精算は可能)。改正でこの申告書の保存期間は7年から10年になりました。
- iDeCoの一時金にかかる退職所得控除は「加入年数」で計算します(会社の勤続年数とは別物)。
よくある質問
2026年の改正で何が変わったのですか?
iDeCoの一時金を先に受け取り、あとで会社の退職金を受け取る場合の重複排除の対象期間が、「前年以前4年内(5年ルール)」から「前年以前9年内(10年ルール)」に延長されました。令和8年(2026年)1月1日以後に支払を受ける退職金から適用されます。
「19年ルール」も変わったのですか?
いいえ。退職金を先に受け取り、あとでiDeCoの一時金を受け取る場合の「前年以前19年内(19年ルール)」は据え置きで、改正の影響を受けません。2026年に変わったのは、iDeCoが先のケース(10年ルール)です。
iDeCoと退職金はどちらを先に受け取るのが得ですか?
勤続年数・加入年数・金額によって変わるため一概には言えません。一般には間隔を空けるほど退職所得控除をフルに使えますが、完全な分離は難しいことが多いです。具体的な税額は金融機関や税理士に試算してもらうのが確実です。
2025年中にiDeCoを受け取れば旧ルールですか?
はい。10年ルールは令和8年1月1日以後に支払を受ける退職金が対象のため、2025年12月31日までにiDeCoの一時金を受け取っていれば、旧「5年ルール」で判定されます。
まとめ
関連コラム
- 退職金の税金(退職所得控除と手取りの基本)
- iDeCoの節税効果と申告手順
- 年金にかかる税金と確定申告(受け取り時期の設計に)
- iDeCoとNISAどっち
参考リンク(出典)
本記事は次の公的資料をもとに作成しています(中立・一次情報)。制度・特例は改正されるため、受け取りの判断前に最新の内容と個別の試算をご確認ください。
- 国税庁 No.1420 退職金を受け取ったとき(退職所得)
- 財務省 令和7年度税制改正の大綱
- 国税庁 令和8年版 源泉徴収のあらまし(税制改正の内容)
- 国税庁 No.2732 退職手当等に対する源泉徴収
※本記事は一般的な情報提供であり、税務アドバイスではありません。退職所得の重複排除の計算は複雑で、個別の判断は税務署・税理士・金融機関にご確認ください。







