海外に持っている不動産の家賃収入と、海外口座で受け取っている利子や運用益。「日本の税務署からは見えないだろう」——この前提は、二重に崩れています。100万円を超える海外送金は金融機関が自動的に税務署へ報告し、海外の口座残高そのものは86か国・地域から年間約206万件、金額の下限なしで日本の国税庁に送られてくるからです。税務調査ファイルの第5回は、申告漏れ所得約2億6,100万円という国税庁の公表事例から、海外の収入が「見えている」仕組みを読みます。
事案:申告していたのは譲渡所得だけだった
調査対象者は、譲渡所得のみを申告していました。ところが税務署が国外送金等調書を検討したところ、国外からの送金が多額に上ることが分かります。さらにCRS情報により、国外の金融機関口座を保有している見込みも立ちました。
調査を実施すると、本人から、国外の企業で勤務していた頃にA国に居住用の不動産を購入したという説明がありました。その不動産の現在の使い方を確認した結果、不動産管理会社を通じて貸し付け、賃料を得ていたことが判明します。
加えて、B国に開設した金融機関口座で投資信託の運用収益の受け入れと預金利子の受領を行っていたことも把握されました。国外不動産の賃料収入と国外口座の利子収入について課税が行われています。
前提をひとつ確認しておきます。日本の居住者(非永住者を除く)は、所得が生じた場所が国内か国外かを問わず、全世界の所得に日本で課税されます。海外の家賃も、海外口座の利子も、日本の確定申告に載せるのが原則です。
海外の収入が「見えている」2本のパイプ
この事案で調査の端緒になった情報源は2つです。どちらも、本人が何もしなくても自動的に流れ込む仕組みです。
国外送金等調書
100万円を超える海外への送金・海外からの受け取りがあると、取り扱った金融機関が氏名・金額・相手国などを記載した調書を税務署に提出します(1998年開始・2009年4月から現在の100万円超に引き下げ)。海外の賃料を日本の口座で受け取れば、その入金は届いています。
CRS(共通報告基準)
OECDが作った金融口座情報の自動交換の枠組みです。日本は86か国・地域から年間約206万件の口座情報(口座残高・利子・配当など)を受領しています。金額の下限はありません。送金を一切しなくても、海外口座の存在と残高が日本の国税庁に届きます。
この2本は性質が違います。送金調書は「お金が国境を越えた瞬間」を捉え、CRSは「向こうに置いてある残高」を捉えます。日本に送金しなければ大丈夫、という抜け道はCRSで塞がれているわけです。この事案でも、送金調書が入口になり、CRS情報が口座保有の見込みを裏づける、という組み合わせで調査が始まっています。
その年の12月31日時点で国外財産の合計が5,000万円を超える居住者は、国外財産調書の提出義務があります。提出していれば申告漏れ時の加算税が5%軽減され、不提出・虚偽記載なら5%加重されるという、アメとムチの設計です。海外に資産がある人は、収入の申告と調書の提出の両方を確認してください。
海外の収入は、日本でこう申告する
| 海外の収入 | 日本での扱い |
|---|---|
| 国外不動産の賃料 | 不動産所得として総合課税。現地通貨の収入・経費は円換算して計算 |
| 国外口座の預金利子 | 国内の預金と違い源泉分離で終わらないため、原則申告が必要(利子所得) |
| 国外の投資信託・株式の運用益 | 配当・譲渡益として申告。国内の特定口座のような自動計算はない |
| 現地で払った税金 | 外国税額控除で二重課税を調整できます。「現地で納税したから日本では不要」ではなく、日本で申告したうえで現地分を控除する順番です |
共通するのは、国内の金融機関経由なら自動で済んでいた処理が、海外分はすべて自分の申告に委ねられていることです。だからこそ、税務署側は調書とCRSで「答え合わせの材料」を先に持っておく設計になっています。申告する側が誠実である限り、この仕組みは怖いものではありません。
この事案から持ち帰れること
| よくある理解 | 実際 |
|---|---|
| 「海外の口座は日本から見えない」 | CRSで86か国・地域から年約206万件、金額下限なしで口座情報が届いています |
| 「日本に送金しなければ分からない」 | 送金調書は動きを、CRSは残高を捉えます。送金しない選択はCRSに無力です |
| 「現地で税金を払ったから日本では申告不要」 | 居住者は全世界所得を日本で申告。現地の税は外国税額控除で調整します |
| 「昔の海外勤務時代の資産だから関係ない」 | いま居住者なら、その資産が生む現在の収入(賃料・利子・運用益)は毎年の申告対象です |
富裕層への調査は1件当たり追徴855万円と、実地調査全体(299万円)の2.9倍。国税庁は海外関連を明確に重点にしています。海外に資産を持つこと自体は何の問題もありません。問題になるのは、そこから生まれる収入を日本の申告に載せないことです。国外財産と相続の論点は外国人と相続税、海外移住側の視点は外国人富裕層の日本移住と税金で扱っています。
今日やること
- 海外にある口座・不動産・証券を1枚に書き出す。国名・金融機関・残高・年間の収入(利子/配当/賃料)。この一覧が、申告漏れの点検表と国外財産調書の下書きを兼ねます。
- 昨年分の申告に「海外分」が載っているか確認する。賃料・利子・運用益のどれかが漏れていたら、調査の事前通知が来る前の自主的な修正申告が最も安く済みます(過少申告加算税なし)。
- 12月31日時点の国外財産が5,000万円を超えそうなら、国外財産調書の準備を始める。提出期限は翌年6月30日。出しておけば加算税5%軽減の側に立てます。
ほかのアクションは手取りアップ・アクションリストへ。
よくある質問
Q. 海外の口座にあるお金は、日本の税務署に分かるのですか。
A. 分かります。CRS(共通報告基準)に基づく自動的情報交換で、日本は86か国・地域から年間約206万件の金融口座情報(残高・利子・配当など)を受領しています。金額の下限はありません。加えて100万円を超える海外送金・受金は、金融機関が国外送金等調書として税務署に提出します。
Q. 海外の家賃収入は日本で申告が必要ですか。現地で税金を払っています。
A. 必要です。日本の居住者(非永住者を除く)は全世界の所得に日本で課税されるため、国外不動産の賃料は不動産所得として申告します。現地で納めた税金は外国税額控除で二重課税を調整できます。現地納税は日本での申告を免除するものではなく、申告したうえで控除する順番です。
Q. 日本に送金しなければ把握されないのではないですか。
A. 送金しなくても把握されます。国外送金等調書は資金の動きを捉える仕組みですが、CRSは海外口座の残高と収入そのものを毎年自動的に日本へ送る仕組みで、送金の有無と関係ありません。公表事例でも、送金調書に加えてCRS情報が口座保有の見込みを裏づける材料になっています。
Q. 国外財産調書とは何ですか。出さないとどうなりますか。
A. その年の12月31日時点で国外財産の合計が5,000万円を超える居住者に提出義務がある調書です(期限は翌年6月30日)。提出していれば国外財産に関する申告漏れの過少申告加算税等が5%軽減され、不提出や虚偽記載の場合は5%加重されます。義務の対象かどうかは、まず年末時点の残高一覧を作って確認してください。
Q. 昔の海外勤務時代に作った口座や買った不動産も対象ですか。
A. いま日本の居住者であれば対象です。取得した時期や当時の居住地にかかわらず、その資産が現在生んでいる賃料・利子・運用益は毎年の申告対象になります。公表事例も、国外勤務時代に購入した居住用不動産を帰国後に貸し付けていたケースでした。
Q. すでに数年分申告が漏れています。どうすべきですか。
A. 調査の事前通知が来る前に自主的に修正申告・期限後申告をすれば、加算税は大きく軽減されます(過少申告加算税はなし、無申告加算税は原則5%)。放置して調査後になれば加算税が重くなり、隠蔽と評価されれば重加算税(35〜40%)です。海外分は計算が複雑なため、国際税務に対応する税理士への相談をおすすめします。
参考リンク(出典)
本記事の事案は国税庁が匿名化して公表している調査事例に基づき、著作権法32条2項により説明の材料として利用しています。
※ 本記事は一般的な情報提供を目的としています。国際課税は居住形態・租税条約によって扱いが変わります。実際の対応は税務署または国際税務に対応する税理士にご相談ください。
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