この記事の更新情報
- 公開。地方税法72条の49の12・72条の49の17、租税特別措置法26条、消費税法別表第二、和歌山県税「個人で医業等を営む方の個人事業税の所得計算について」、東京都主税局「個人事業税」、国税庁タックスアンサー No.6201・No.6501・No.1415・No.5382 をもとに作成
開業医の個人事業税は、診療報酬の全部にはかかりません。健康保険や国保が効いた診療は、収入も経費も計算から外します。残った自費診療などの所得から290万円を引き、5%をかけます。社会保険診療4,000万円のモデルでは、概算経費の特例で所得税の所得が370万円縮みます。それでも個人事業税は5万5,000円のまま、1円も動きません。
結論:事業税がかかるのは「保険が効かない分」だけ
事業税の対象外は社会保険診療の収入です[地方税法72条の49の12]。落とし穴は消費税の線とそろわないこと。労災と自賠責の診療は、事業税では課税なのに消費税では非課税です。
| 収入の種類 | 個人事業税 | 消費税 |
|---|---|---|
| 社会保険診療(健保・国保・後期高齢者) | 非課税 | 非課税 |
| 労災・自賠責・公害補償の診療 | 課税 | 非課税 |
| 正常分娩(助産) | 課税 | 非課税 |
| 健診・予防接種・美容整形 | 課税 | 課税 |
| 差額ベッド代・文書料 | 課税 | 課税 |
出典:地方税法72条の23第3項[地方税法]、和歌山県税[和歌山県税]、国税庁 No.6201[国税庁]。
医業は第3種事業の5%。3%と間違えやすい
医業・歯科医業・薬剤師業は第3種事業で、税率は5%です[地方税法72条の49の17]。3%なのは、あん摩・マッサージ・指圧・はり・きゅう・柔道整復と装蹄師業だけです。同じ第3種に税率が2つあり、読み違えが起きます。
| 項目 | 医業の扱い |
|---|---|
| 業種区分と税率 | 第3種事業・5% |
| 事業主控除 | 年290万円 |
| 青色申告特別控除 | 使えない。所得に足し戻す |
| 申告と納期 | 3月15日申告、8月と11月に納付 |
出典:地方税法72条の2第10項ほか[地方税法]、東京都主税局[東京都主税局]。
所得税で引いた青色申告特別控除65万円は、事業税では引けません。都道府県は事業所得に足し戻して計算します[東京都主税局]。全体像は個人事業税の基本で確認できます。
医療法人も同じ形です。社会保険診療の収入は益金に、経費は損金に算入しません[地方税法72条の23第2項]。対象は医療法人と一部の農業協同組合連合会だけです。
非課税は「収入も経費もなかったことにする」仕組み
条文は「非課税の所得を差し引く」とは書きません。社会保険診療の収入も経費も算入しない、という形です[地方税法72条の49の12]。だから経費の割り振り方で税額が動きます。
割り振り方は2通り。区分経理ができていればその数字を、なければ収入按分を使います[和歌山県税]。
按分率 =(自由診療等収入+その他の収入)÷(社会保険診療収入+自由診療等収入+その他の収入)
課税所得 = 事業税ベースの総所得 × 按分率
按分率は小数点以下第6位未満を切り捨てます。経費の戻入や、経費と一対の補助金は「その他の収入」に入れません[和歌山県税]。
式は都道府県で割れます。鳥取県の簡略式は分子に雑収入を入れません[鳥取県]。東京都の個人向け様式は本サイトでは確認できませんでした。所轄の県税事務所・都税事務所の計算書に従ってください。
確定申告では、社会保険診療分の所得を第二表の「非課税所得など」欄に書きます[和歌山県税]。空欄では、都道府県が非課税分を把握できません。
概算経費の特例は5,000万円と7,000万円が入口
社会保険診療は、実額に代えて決まった率で経費を計算できます[租税特別措置法26条]。入口は2つ。社会保険診療が5,000万円以下、かつ医業・歯科医業の総収入が7,000万円以下であること。
- 対象は医業・歯科医業を営む個人。薬剤師業などは対象外
- 確定申告書に特例で計算した旨の記載がないと使えない
- 青色申告の要件はなく、白色申告でも使える
- 適用期限なし。令和8年度の大綱にも改正の記載なし[財務省]
条文の率は階層の積み上げです。2,500万円以下が72%、3,000万円以下が70%、4,000万円以下が62%、5,000万円以下が57%と重ねます。実務で見る「+50万円」などはこれを1行に直した速算表の数字で、条文に定額の加算はありません。
| 社会保険診療(年) | 速算表による経費 | 実効率 |
|---|---|---|
| 2,500万円以下 | 収入 × 72% | 72.00% |
| 2,500万円超 3,000万円以下 | 収入 × 70% + 50万円 | 71.67%(3,000万円) |
| 3,000万円超 4,000万円以下 | 収入 × 62% + 290万円 | 69.25%(4,000万円) |
| 4,000万円超 5,000万円以下 | 収入 × 57% + 490万円 | 66.80%(5,000万円) |
速算表と実効率は、条文[租税特別措置法26条]を本サイトが換算した値です。
物差しは1行です。社保分の実額経費率が実効率を下回れば概算経費が得。開業直後で減価償却が重い年は実額が勝ちます。判定は毎年やり直します。
試算:所得税は370万円減るのに、事業税は1円も動かない
概算経費で増えた経費は、事業税では無いものとされる社会保険診療の側に落ちます。所得税は下がっても事業税は動きません。
- 前提:区分経理なし、雑収入0円、青色控除65万円
- 要件:社保4,000万円・総収入5,000万円とも基準内
- 所得税・実額:5,000−3,000 = 2,000万円
- 所得税・概算:社保分2,770万円+自由診療分600万円。差引1,630万円
- 差は370万円。実額経費率60.0%<実効率69.25%だから
- 事業税・按分:按分率0.200000、課税所得400万円。(400−290)×5% = 5万5,000円
- 事業税・概算:自由診療等の所得も400万円。5万5,000円で同額
和歌山県税[和歌山県税]と措置法26条[租税特別措置法]に本サイトが当てはめた試算です。
所得税と住民税を合わせて43%なら、370万円の圧縮は約159万円の軽減です。それでも事業税は5万5,000円のまま。動かせるのは自由診療側の経費だけです。
区分経理で軽くなる
- 自由診療の実額経費が800万円と確定
- 1,000−800 = 200万円。控除290万円に届かない
- 事業税は0円
区分経理で重くなる
- 自由診療の実額経費が400万円だけ
- 1,000−400 = 600万円。(600−290)×5%
- 事業税15万5,000円。按分より10万円重い
分かれ目は、美容レーザーや矯正機材を自由診療に紐づけられるかです。区分経理が必ず得とは限りません。自院の数字で比べて決めます。
労災と自賠責は、消費税では非課税売上になる
消費税法の別表第二は、労災・自賠責・公害補償の療養を非課税に並べます。助産も非課税です[消費税法 別表第二]。事業税で課税側に回るこの4つが、消費税では逆です。
自由診療の合計を課税売上として1,000万円を判定すると間違えます。判定は基準期間の課税売上高です[国税庁 No.6501]。
- 労災300万円・自賠責100万円を含む → 課税売上600万円で免税
- 全額が健診・自費診療で税込1,000万円 → 税抜909万909円で免税
- 同じ内訳で税込1,200万円 → 税抜1,090万9,090円で課税
美容整形や差額ベッド代、市販薬は非課税になりません[国税庁 No.6201]。課税事業者になったら簡易課税と本則課税で軽いほうを選びます。
インボイス登録は、患者が相手なら急ぎません。産業医の委託料や企業健診、治験など事業者から受け取る取引があるなら検討します。登録すると1,000万円以下でも納税義務が出ます[国税庁 No.6501]。設備投資の年の手続は課税事業者選択届出書へ。
勤務医:バイト先は乙欄、産業医の報酬は給与
勤務医が確定申告になる理由は、ほぼ当直や外来のアルバイトです。扶養控除等申告書は1か所にしか出せません。2か所目以降は乙欄で引かれ、年末調整もありません。
- 従たる給与と給与以外の所得の合計が20万円超なら申告
- 給与の収入が2,000万円超なら無条件で申告
- 講演料・原稿料は事業でなければ雑所得(源泉10.21%)
意外なのは産業医の報酬です。国税庁は、事業者から受ける産業医の報酬を所得税法上原則として給与としています[国税庁 質疑応答事例]。開業医が受け取っても給与収入で、消費税は不課税です。なおこの質疑応答は消費税のもので、所得税の扱いはなお書きにあります。
勤務医の経費を給与から引くのが、給与所得者の特定支出控除です。引けるのは給与所得控除額の2分の1を超えた部分だけ[国税庁 No.1415]。学会参加費も研修費になり得ますが、勤務先の証明が要ります。詳しくは特定支出控除はなぜ使えないのかへ。
今からできること
- 第二表を見る。「非課税所得など」欄に社会保険診療分の所得が入っているかを確かめます。
- 自由診療の経費を拾う。美容機器や矯正材料など自由診療専用の支出を洗い出し、按分と比べます。
- 概算経費を毎年判定する。実効率と実額経費率を比べ、使う年は申告書に記載します。
- 様式を所轄に確かめる。按分率に雑収入を入れるかは都道府県で違います。
まずは今年の決算書で、社会保険診療と自由診療等の収入を分けて集計してください。この1枚で事業税も消費税も判定できます。
まとめ
- 開業医の個人事業税は、社会保険診療の収入も経費も計算から外し、残りの所得に5%をかける
- 医業は第3種事業で税率5%、事業主控除は年290万円。青色申告特別控除は使えない
- 労災・自賠責・公害補償・正常分娩は、事業税では課税なのに消費税では非課税
- 概算経費の特例は社会保険診療5,000万円以下・総収入7,000万円以下が入口。所得税は減っても事業税は動かない
- まず決算書で社会保険診療と自由診療等の収入を分けて集計し、第二表の「非課税所得など」欄を確かめる
コメントみんなの意見
コメントの閲覧・投稿は会員限定です(無料・Googleアカウントでログイン)。
コメントは会員限定です。ログインすると読む・書くができます。
無料・Googleアカウントだけで登録できます
コメントを読み込んでいます…
この記事は役に立ちましたか?
「はい」が多い記事から、優先的に内容を更新・深掘りしていきます。
フィードバックありがとうございます
今後の改善の参考にさせていただきます。分かりにくかった点があれば、お問い合わせから教えていただけると嬉しいです。
参考リンク(出典)
- 地方税法——業種区分と非課税
- 租税特別措置法26条——概算経費の要件
- 消費税法 別表第二——労災等の非課税
- 和歌山県税 医業等の個人事業税の所得計算——按分率
- 東京都主税局 個人事業税——青色控除の加算
- 鳥取県 医業等の個人事業税額の計算方法——簡略式
- 財務省 令和8年度税制改正の大綱——改正なし
- 国税庁 No.6201 非課税となる取引——美容整形は課税
- 国税庁 No.6501 納税義務の免除——1,000万円の判定
- 国税庁 No.1415 給与所得者の特定支出控除——2分の1の基準
- 国税庁 質疑応答事例 産業医の報酬——原則として給与
※試算は条文と都道府県の計算方法を本サイトが当てはめたものです。様式は都道府県で異なります。個別の判断は税理士・県税事務所へ。









