「減税しても、税金を払っていない人には届かない」——この問題を解決するのが給付付き税額控除です。減税で引ききれない分を現金給付で補う仕組みで、いま政府・与野党の協議体で制度設計が進んでいます。2026年7月時点では「まず給付のみ・1人4万円」が有力案。この記事では、仕組みと協議の最新状況を整理したうえで、年収別に「いくらもらえるか・損する人はいるか」をその場でシミュレーションできるようにしました。
・方式は「税額控除」を当面見送り、給付のみで先行スタートする方向で一致
・給付額は1人あたり4万円が有力。対象は働いて収入のある中低所得層(年収の壁付近のパート・アルバイトを含む)
・スケジュールは2027年度に所得連動型の給付を先行導入 → 2029年度に本格導入を想定。つなぎとして食料品の消費税を2027年4月から2年間1%へ引き下げる案とセットで協議中
給付付き税額控除とは|「減税+給付」のハイブリッド
従来の減税(税額控除)は、納めている税金より多くは引けません。たとえば10万円の減税をしても、所得税を3万円しか納めていない人の恩恵は3万円止まり。所得税がゼロの人(年収が低い人・年金生活者など)には1円も届きません。
給付付き税額控除は、この「引ききれない分」を現金で給付します。10万円の税額控除なら、税額3万円の人は「3万円の減税+7万円の給付」、税額ゼロの人は「10万円の給付」。所得の少ない人ほど恩恵が薄い、という従来の減税の弱点を裏返した制度です。
| 本来の税額 | 従来の減税(10万円) | 給付付き税額控除(10万円) |
|---|---|---|
| 15万円の人 | ▲10万円(満額) | ▲10万円(減税のみ・同じ) |
| 3万円の人 | ▲3万円まで | 減税3万円+給付7万円 |
| 0円の人 | 恩恵なし | 給付10万円 |
2024年に実施された定額減税(1人4万円)で「引ききれない人」に調整給付を配った仕組みは、実質的にこの考え方の先行例です。海外では米国のEITC(勤労所得税額控除)、カナダのGSTクレジットなどが有名で、働くほど給付が増える設計にして勤労意欲を高める使い方が主流です。
いま何が決まりつつあり、何が未定か
| 項目 | 協議の方向性(2026年7月時点) |
|---|---|
| 方式 | 税額控除は当面見送り、「給付のみ」で先行する方向で一致 |
| 金額 | 1人あたり4万円が有力案 |
| 対象 | 働いて収入のある中低所得層(個人単位・単身も対象)。年収の壁(106万・130万円付近)で働き控えする人を含む。年金受給者等の扱いは協議中 |
| 所得連動 | 所得が上がると給付が減る「逓減」設計の方向。どの年収から減り、どこでゼロになるかは未定 |
| 時期 | 2027年度に先行給付 → 2029年度に本格導入を想定。つなぎで食料品の消費税を2027年4月から2年間1%に引き下げる案 |
| 財源 | 民間試算で年5兆円規模。確保策は未定(最大の論点) |
出典:政府・与野党「給付付き税額控除等に関する国民会議」資料[内閣官房]・各種報道。2026年6月予定だった中間とりまとめは7月以降にずれ込み、7月10日に4党(自民・維新・国民民主・中道改革連合)が協議再開を確認しています。
【シミュレーター】年収別にいくらもらえる?損する人は?
2つのモデルで試算できます。モデル①は協議中の案(給付のみ・4万円)をベースにしたもの、モデル②は「もし財源も込みで設計したら」という財政中立の置き換え試算で、こちらは年収によってマイナスも出ます。
制度は設計協議中で、正式な金額・逓減ライン・対象は決まっていません。モデル①の逓減ライン(給与収入400万円から減り始め600万円でゼロ)は当サイトの仮置きです。モデル②は「所得税・住民税の基礎控除を廃止して1人10万円の給付付き税額控除に置き換える」という研究者の間で議論されてきた財政中立型の設計例を、単身・給与収入のみ・社会保険料15%の概算で計算したものです。実際の制度とは異なります。
モデル②で「損する人」が出るのはなぜか
給付のみの案(モデル①)は、もらえる人にはプラス、対象外の人はゼロで、直接マイナスになる人はいません。ただし年5兆円規模の財源をどこかから調達する必要があり、「誰かの負担」を決めないまま給付だけが先行するのが現在の協議の弱点だと指摘されています。
そこで参考になるのが、モデル②のような財政中立型の設計です。全員に効いている基礎控除(所得税58万円・住民税43万円)を廃止して一律の給付付き税額控除に置き換えると、控除の恩恵が大きかった高所得層は負担増、恩恵が小さかった低所得層は受け取り超過になります。所得控除は税率の高い人ほど得をする仕組みなので、それを「全員同額」に変えることが、そのまま所得再分配になるわけです。
1人10万円の置き換え試算では、年収550万円前後で損得が入れ替わります。収入がごく少ない人は+10万円、年収100万円で約+7万円、年収300万円で約+3万円、年収800万円で約−6万円、年収2,000万円では約−14万円。「どこを分岐点にするか」は給付額の設定次第で動かせます。
実現までの論点
- 所得をどう正確に把握するか:給付の逓減には所得情報が必要です。前年の所得を使うと「いま困っている人」に遅れて届き、マイナンバーによる迅速な所得捕捉が前提になります。
- 財源:民間試算で年5兆円規模。国債か、他の控除・給付の整理か、増税かの議論は事実上これからです。
- 既存制度との重複:住民税非課税世帯向け給付・児童手当・年収の壁対策と役割が重なるため、制度の整理が必要です。
- 勤労インセンティブ:米国EITCのように「働くほど増える」設計にするか、単純な所得連動給付にするかで、働き方への影響が変わります。
年収の壁との関係は106万円と130万円の壁、いまの非課税世帯向け支援は住民税非課税世帯の条件で解説しています。税金が集まる側・使われる側の全体像は税収データもどうぞ。
よくある質問
給付付き税額控除はいつから始まりますか?
未定です。2026年7月時点の協議では、2027年度に所得連動型の給付を先行導入し、2029年度の本格導入を目指す案が軸です。つなぎとして食料品の消費税を2027年4月から2年間1%に引き下げる案もセットで協議されています。正式決定は中間とりまとめ・法案成立後です。
いくらもらえる見込みですか?
1人あたり4万円の給付が有力案です。対象は働いて収入のある中低所得層で、所得が上がると減る「逓減」設計が検討されていますが、どの年収からいくら減るかは未定です。
定額減税と何が違うのですか?
2024年の定額減税は税金から引く方式が基本で、引ききれない人には別途調整給付を配りました。給付付き税額控除は、この「減税と給付の一体化」を恒久的な制度にするもので、税金を納めていない人にも最初から同じ額が届く点が違います。
損する人はいますか?
協議中の「給付のみ」案では直接損する人はいませんが、年5兆円規模の財源の負担者は未定です。仮に基礎控除の置き換えのような財政中立型で設計すると、試算では年収550万円前後を境に高所得層は負担増(年収2,000万円で年約14万円)になります。
年金生活者や専業主婦(主夫)ももらえますか?
協議中です。現在の案は「働いて収入のある中低所得層」が軸で、年金受給者や遺族年金・障害年金の受給者の扱いは引き続き検討事項とされています。
出典:内閣官房 給付付き税額控除等に関する国民会議(配布資料)/日本経済新聞「給付付き税額控除、政府・与野党が国民会議 26年中に設計めざす」ほか各種報道(2026年7月時点)。本記事のシミュレーションは制度確定前の試算モデルであり、実際の制度内容・金額とは異なります。個別の税務のご判断は税務署・税理士にご確認ください。







