兼業農家の確定申告|農業の赤字は給与と通算できる?20万円・自家消費・帳簿

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  • 公開。国税庁「令和7年分 収支内訳書(農業所得用)の書き方」「青色申告決算書(農業所得用)の書き方」、タックスアンサー(No.1900・No.2250)、所得税基本通達35-2・39-2をもとに作成

会社勤めをしながら親から継いだ田畑を守っている人にとって、確定申告は毎年の悩みどころです。農業の所得が20万円を超えれば申告が必要で、赤字なら給与から引かれた所得税が戻る損益通算が使えます。ただし、帳簿がなく収入が300万円以下だと「事業所得」ではなく「雑所得」とされ、赤字を給与と相殺できません。自分で食べた米や野菜も収入に入れる、売った年ではなく収穫した年に計上する、JAへの出荷ならインボイスは要らない——農業所得にしかない決まりを、国税庁の農業所得用の手引きで整理します。

結論:申告の要否は「20万円」、赤字の相殺は「帳簿」で決まる

農業の状況確定申告給与との損益通算
農業所得(収入−経費)が黒字で20万円超必要—(黒字なので通算の対象なし)
農業所得が黒字で20万円以下所得税は不要。住民税の申告は必要—
農業所得が赤字。帳簿をつけ、事業として営んでいる義務はないが申告すると還付できる(事業所得の赤字)
農業所得が赤字。帳簿がなく収入300万円以下不要できない(業務に係る雑所得の赤字)

兼業農家にとって最大の論点は3行目と4行目の違いです。同じ赤字でも、帳簿があるかどうかで数万円の還付が出るか出ないかが変わります。

20万円の判定は「収入」ではなく「所得」で見る

給与所得者は、給与以外の所得が年20万円を超えると確定申告が必要です[国税庁 No.1900]。ここでいう所得は農産物の売上から必要経費を引いた残りで、売上そのものではありません。米を60万円分出荷しても、肥料・農薬・機械の減価償却・燃料などの経費が45万円あれば所得は15万円で、所得税の申告は不要です。

ただし20万円以下でも住民税には同じ免除がなく、市区町村への住民税の申告が必要です。出さないと国民健康保険料の軽減判定などで不利になります。詳しくは確定申告しない人の住民税申告を参照してください。

赤字を給与と相殺できるかは「事業所得」か「雑所得」かで決まる

損益通算ができるのは不動産所得・事業所得・山林所得・譲渡所得の赤字だけで、雑所得の赤字は他の所得から引けません[国税庁 No.2250]。農業所得が事業所得なら赤字を給与所得と通算して所得税の還付を受けられますが、雑所得なら赤字は切り捨てです。

2022年(令和4年)の所得税基本通達の改正で、事業所得と「業務に係る雑所得」の線引きが明文化されました。ポイントは帳簿書類を保存しているかで、保存があれば原則として事業所得、保存がなければ原則として雑所得です。ただし帳簿があっても、その収入が例年300万円以下で主たる収入(給与)の10%未満だったり、赤字が続いていて解消の見込みがない場合は、事業と認められないことがあります。

兼業農家の赤字が給与と相殺できるかの分かれ目
帳簿書類を保存している?現金出納帳・売上と経費の記録・領収書 していない 業務に係る雑所得赤字は給与と通算できない している 原則は事業所得ただし次のどちらかなら個別判断 収入が例年300万円以下で給与の10%未満(僅少)赤字が続き改善の取り組みなし 事業所得赤字を給与と損益通算所得税が還付 兼業農家の多くは「帳簿あり・収入300万円以下・給与の10%未満」に当たる。だからこそ、収穫と出荷の記録、経費の領収書、改善の取り組みが説明できる形で残っているかが分かれ目になる
出典:所得税基本通達35-2(令和4年10月改正)、国税庁 No.2250 をもとに作成

給与500万円の会社員。農業の収入80万円・経費110万円で30万円の赤字(帳簿あり・事業所得)

損益通算後の所得:給与所得356万円 − 30万円 = 326万円
減る税金:30万円 × 所得税10% = 3万円の還付、翌年度の住民税も 30万円 × 10% = 3万円減

同じ赤字でも雑所得と判断されれば、還付も減額もゼロです。

「事業として営んでいる」と説明するために残しておきたいのは、収穫量と出荷の記録、経費の領収書、作付けや販路の改善の取り組みです。赤字が続いている年でも、翌年に向けて何を変えたかを書き残しておくと判断材料になります。帳簿の付け方と青色申告の要件は青色申告と白色申告の違いを参照してください。

使う様式は「農業所得用」。一般用とは別物

白色申告なら「収支内訳書(農業所得用)」、青色申告なら「青色申告決算書(農業所得用)」を使います。国税庁が令和7年分の書き方を公開しています[国税庁 収支内訳書(農業所得用)の書き方][青色申告決算書(農業所得用)の書き方]。一般用との違いは、収入を作物ごと(米・野菜・果樹など)に書き、経費に種苗費・肥料費・農薬衛生費・農具費・作業用衣料費・農業共済掛金といった農業特有の科目が並ぶことです。

項目農業所得ならではの決まり
収入の計上時期収穫した年に、収穫時の価額で計上する(収穫基準・所得税法41条)。年末に倉庫にある米も、その年の収入
自家消費自分や家族が食べた分も収入に入れる。帳簿に取得価額以上の金額を記載していれば、時価のおおむね70%以上で認められる(通達39-2)[国税庁 通達39-2]
親戚への贈答自家消費と同じ扱い。無償で渡した分も収入
交付金・共済金経営所得安定対策の交付金、収入保険や農業共済の共済金は農業の収入に計上する
農機具10万円以上は減価償却。トラクター・コンバインなどの農業用機械は耐用年数7年。青色申告なら40万円未満は一括で経費にできる
軽トラ・電気・水道家庭と兼用のものは使用実態で按分し、農業分だけを経費にする
農業者年金の掛金全額が社会保険料控除。農業共済の掛金は経費

減価償却のしくみは減価償却の基礎、40万円未満の一括経費は少額減価償却資産の特例を参照してください。

消費税とインボイス:JAへの委託出荷なら発行不要

農業の売上が年1,000万円以下なら消費税は免税事業者のままでよく、兼業農家の大半がここに入ります。インボイスについては「農協特例」があり、農協などに無条件委託方式かつ共同計算方式で販売を委託した農林水産物は、生産者がインボイスを発行する義務が免除されます。買い手側はJAが発行する書類で仕入税額控除ができるため、生産者が登録事業者になる必要はありません。

逆に、直売所での販売や飲食店への直接納品では買い手からインボイスを求められることがあります。免税事業者のままなら、買い手は経過措置で仕入税額の一定割合しか控除できず(2026年10月以降は7割。令和8年度改正で当初予定の5割から緩和)、価格交渉の材料にされることがあります。インボイスの基本はインボイス制度と免税事業者、経過措置の縮小はインボイス経過措置の7割控除を参照してください。

青色申告にする価値があるか

青色申告が向く

  • 毎年黒字が出て、65万円(電子申告)の特別控除が効く
  • 赤字の年がある(3年間の繰越控除)
  • 家族に手伝ってもらい専従者給与を出したい

白色でもよい

  • 所得が毎年20万円前後で、控除を使い切れない
  • 複式簿記の記帳が負担で続かない

青色申告には事前の承認申請が必要で、2027年分から使うなら2027年3月15日までに提出します。白色でも帳簿と領収書の保存は必要で、これがある限り「事業所得」の主張は立ちます。

今日やること

  1. 今年の農業の収入と経費を集計して、所得が20万円を超えるか・赤字かを見る。自家消費と贈答の分も収入に入れる。
  2. 帳簿になっていなければ、出荷伝票と領収書を月ごとに束ねて現金出納帳を作る。これが「事業所得」と「雑所得」の分かれ目。
  3. JA以外に売った先があれば、インボイスを求められたかを確認する。求められていなければ免税のままでよい。

よくある質問

親名義の田んぼで、収入は親の口座に入っています。私が申告するのですか?

農業所得は、実際に経営している人(作付けを決め、経費を負担し、収入を得ている人)の所得です。親が経営の主体で収入も親が受け取っているなら、申告するのは親です。名義だけでなく実態で判断されます。

まとめ

  • 給与所得者は農業所得(収入−経費)が20万円を超えると確定申告が必要。20万円以下でも住民税の申告は必要
  • 赤字を給与と損益通算できるのは事業所得だけ。帳簿がなく収入300万円以下なら雑所得で通算できない
  • 自分や家族が食べた分、親戚への贈答も収入。計上は売った年ではなく収穫した年
  • JAへの無条件委託・共同計算方式の出荷なら、インボイスの発行は不要
  • 出荷伝票と領収書を月ごとに束ねて現金出納帳を作ることが、事業所得と雑所得の分かれ目

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本記事は次の資料をもとに作成しています。制度は改正されるため、申告前に最新の内容をご確認ください。

※本記事は一般的な情報提供であり、税務アドバイスではありません。事業所得と雑所得の区分は個別の事情で判断されます。判断に迷う場合は税務署・税理士・JAの税務相談にご確認ください。

公開日:2026年10月09日 / 執筆:みんなの税金 編集部

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