相続した金地金の売却、なぜ無申告がばれたのか|支払調書200万円の壁

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カテゴリ:制度・ニュース

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相続した金地金を売って、売却代金を親族の口座に移し、自分の口座の残高を減らした。顧問の税理士にも売ったことを黙っていた。それでも税務署は、調査に着手する前から譲渡の事実をつかんでいました。なぜか。金地金は、200万円を超えて売った時点で、買い取った業者があなたの氏名・マイナンバー・金額を税務署に報告しているからです。税務調査ファイルの第4回は、国税庁が公表した金地金無申告の実例から、「隠す前からばれている」情報の仕組み——支払調書——を読みます。

このシリーズについて:扱う事案は国税庁の報道発表資料に載る調査事例と国税不服審判所が公表する裁決事例から採ります。いずれも公的機関自身が匿名化して公表しているもので、個人のブログやSNSの投稿を転載することはしません。事案は特定の個人・法人を指すものではなく、記事中の判断はすべて条文と公表資料に基づいています。

事案:口座の残高を減らせば分からない、と考えた

事案相続で取得した金地金を売却したのに、所得税が無申告だった
結果:譲渡所得に課税・重加算税を賦課

税務署は部内資料から、調査対象者が金地金の譲渡を行っていることを把握していました。それにもかかわらず所得税の申告がなかったため、調査が実施されます。

調査の着手後、調査対象者の銀行口座に金地金の売却代金が入金されていること、そして売却代金の大半が現金での出金や親族への送金によって口座から出ていっていることが確認されました。

説明を求められた本人は、譲渡所得の申告が必要であることを認識していながら、売却代金を親族名義の銀行口座に振り込むなどして自分の口座残高を減らせば「税務署には分からない」と考え、さらに関与税理士にも金地金の譲渡があったことを秘匿して、確定申告をしていなかったことを認めました。

金地金の売却益に課税が行われ、これらの行為が隠蔽に当たるとして重加算税が賦課されています。

所得税(1年分)申告漏れ所得 約1,300万円/追徴税額 約400万円(重加算税あり)
出典:国税庁「令和6事務年度 所得税及び消費税調査等の状況」Ⅳ 調査事例 事例4

「部内資料」の正体——売った瞬間に、報告は済んでいる

この事案の起点は、口座でも密告でもありません。調査の前から税務署の手元にあった「部内資料」です。その中核が支払調書です。

金地金等の譲渡の対価の支払調書

金地金等の売買を業として行う者(貴金属店・買取業者など)は、個人から金地金等を買い取り、その対価が200万円を超える場合、支払を受ける人の住所・氏名・マイナンバー・金地金の種類・重量・支払金額・支払年月日を記載した支払調書を税務署に提出する義務があります(2012年1月開始)。

つまり、店頭で金を売って代金を受け取った瞬間に、その取引はあなたの名前とひも付いて税務署に届く仕組みになっています。時系列を並べると、この事案の「隠す努力」がすべて手遅れだったことが分かります。

  • 金地金を売却——この時点で買取業者から支払調書が提出される(200万円超)
  • 売却代金が本人口座に入金
  • 現金で出金・親族名義口座へ送金して残高を減らす——もう遅い
  • 税理士にも譲渡を秘匿し、確定申告をしない
  • 税務署が部内資料と無申告の不一致を検知し、調査に着手
  • 口座の入出金から売却代金の流れを復元される

口座間の資金移動は、調査になれば金融機関への照会で追えます。残高を減らす行為は所得を消しません。むしろ「分かっていて隠した」という故意の証拠を積み上げるだけです。第1回で見たとおり、重加算税の要件は故意(隠蔽・仮装)であり、親族名義口座への付け替えと税理士への秘匿は、その典型的な材料になります。

そもそも、いくら申告が必要だったのか

金地金を売った利益は、原則として譲渡所得(総合課税)です。給与など他の所得と合算して課税されます。

ポイント内容
特別控除譲渡所得には年50万円の特別控除。売却益がこの範囲なら課税されません
保有期間で半分に保有5年超で売った場合(長期譲渡所得)は、特別控除後の2分の1だけを他の所得と合算
相続した金地金の取得費被相続人(亡くなった人)の取得費と取得時期を引き継ぎます。相続した日の時価ではありません。親が昔安く買った金なら、売却益は大きく出ます
取得費が不明なら購入時の資料がない場合、売却価額の5%を取得費とする概算取得費で計算できます(利益の95%が課税対象になり、著しく不利)

相続した金地金は「親の買値」と「買った日」をそのまま引き継ぐため、金価格が上がった局面では想像より大きな譲渡益が出ます。購入時の計算書や領収書が相続財産の中に残っていないかを、売る前に探してください。詳しい計算は金地金の売却益と相続の税金にまとめています。

この事案から持ち帰れること

よくある理解実際
「口座からお金を移せば分からない」譲渡の事実は売った時点の支払調書で把握済み。資金移動は調査で復元され、故意の証拠になるだけ
「税理士に言わなければ申告に載らない」載らないから無申告になり、税理士への秘匿自体が隠蔽の材料と評価されます
「相続でもらった金だから税金はかからない」相続時に相続税の対象になるのとは別に、売却時の値上がり益には所得税がかかります
「200万円以下ずつ分けて売れば調書は出ない」調書の基準は超えなくても、買取業者の記録・本人確認は残り、反復する売却は資料情報として把握され得ます。意図的な分割は隠蔽と評価されるリスクを自ら作る行為です

今日やること

  1. 金・プラチナを売った年があるか、通帳と記憶を確認する。200万円超の売却は税務署に届いています。申告していなければ、調査の前に自主的に期限後申告・修正申告をすれば加算税が軽くなります(第2回参照)。
  2. 相続財産に金地金があるなら、被相続人の購入資料を探す。計算書・領収書・銀行の振込記録。取得費が証明できるかどうかで税額が大きく変わります。
  3. 税理士には全部話す、と決めておく。言いにくい取引ほど先に伝えるのが安く済みます。秘匿は申告漏れと隠蔽評価の両方を生みます。

ほかのアクションは手取りアップ・アクションリストへ。

よくある質問

Q. 金地金を売ると、税務署にはどう伝わるのですか。

A. 金地金等の売買を業として行う者は、個人から200万円を超える対価で買い取った場合、支払を受ける人の住所・氏名・マイナンバー・金地金の種類・重量・支払金額・支払年月日を記載した支払調書を税務署に提出する義務があります。売却した時点で取引があなたの名前とひも付いて報告される仕組みです。

Q. 売却代金を別の口座に移したり現金で引き出したりすれば分かりませんか。

A. 譲渡の事実は売却時の支払調書で把握済みなので、その後の資金移動で所得は消えません。調査になれば金融機関への照会で入出金は復元されます。公表事例では、親族名義口座への振込などで残高を減らした行為と税理士への秘匿が隠蔽と評価され、重加算税が賦課されました。

Q. 相続した金地金を売ったときの税金はどう計算しますか。

A. 原則として譲渡所得(総合課税)です。取得費と取得時期は被相続人から引き継ぎます。年50万円の特別控除があり、通算の保有期間が5年を超えていれば控除後の2分の1だけを他の所得と合算します。購入時の資料がない場合は売却価額の5%を取得費とする概算取得費になり、大きく不利になります。

Q. 200万円以下に分けて売れば申告しなくてよいですか。

A. いけません。支払調書の提出基準と申告義務は別で、売却益が特別控除の50万円を超えれば調書の有無にかかわらず申告が必要です。買取業者には本人確認と取引記録が残り、反復する売却は資料情報として把握され得ます。調書を避ける目的の分割は、故意を示す事情として自分に不利に働きます。

Q. 税理士に隠していた場合、責任はどうなりますか。

A. 申告書を作るのは税理士でも、申告内容の責任は納税者本人にあります。税理士に取引を秘匿すれば申告から漏れ、公表事例のようにその秘匿自体が隠蔽の評価材料になります。重加算税は無申告の場合で40%(過少申告の場合で35%)と重く、延滞税も加わります。

Q. まだ調査の連絡は来ていません。今からできることはありますか。

A. 調査の事前通知より前に自主的に期限後申告・修正申告をすれば、加算税は大きく軽減されます(無申告加算税は原則5%)。放置して調査後になると無申告で15〜30%、隠蔽と評価されれば40%です。過去5年分を確認し、早く動くほど負担は軽くなります。

参考リンク(出典)

本記事の事案は国税庁が匿名化して公表している調査事例に基づき、著作権法32条2項により説明の材料として利用しています。

※ 本記事は一般的な情報提供を目的としています。譲渡所得の計算や加算税の適用は個別の事実関係によって変わります。実際の対応は税務署または税理士にご相談ください。

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公開日:2026年09月09日 / 執筆:みんなの税金 編集部

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