この記事の更新情報
- 公開。国税庁 タックスアンサー No.4152・4155・4158・4124・4168・4211、国税庁「令和6年分 相続税の申告事績の概要」(2025年12月)、財務省「相続税の改正に関する資料」「相続税の税率構造に関する資料」、財務省 令和9年度税制改正要望(金融庁)をもとに作成。税額は本サイトの試算
「相続税は3代続けば財産がなくなる」。X でも何度も流れてくる言葉ですが、本当かどうか計算した記事は意外と見当たりません。そこで、配偶者と子2人の家庭で3回の相続が起きたと仮定して、国税庁の税率表どおりに税額を出しました。結論は、1億円なら3回の相続で税は約400万円(4%)、10億円なら約4.8億円(48%)。言い伝えは富裕層にはほぼ本当で、普通の家には当てはまりません。ただし普通の家でも財産は減ります。減らすのは税ではなく、きょうだいで分けることと納税資金のために家を売ることです。
結論:3回の相続で税に消えるのは、1億円で4%・3億円で21%・10億円で48%
| 最初の財産 | 1回目の税(父→母と子) | 2回目の税(子→孫) | 3回目の税(孫→ひ孫) | 税の合計 | ひ孫1人の取り分(8人で分けた場合) |
|---|---|---|---|---|---|
| 1億円 | 395万円 | 0円 | 0円 | 395万円(4.0%) | 1,201万円 |
| 2億円 | 2,120万円 | 262万円×2家 | 0円 | 2,645万円(13.2%) | 2,169万円 |
| 3億円 | 4,700万円 | 756万円×2家 | 57万円×4家 | 6,441万円(21.5%) | 2,945万円 |
| 5億円 | 1億1,475万円 | 1,972万円×2家 | 228万円×4家 | 1億6,330万円(32.7%) | 4,209万円 |
| 10億円 | 3億3,020万円 | 5,834万円×2家 | 947万円×4家 | 4億8,477万円(48.5%) | 6,440万円 |
本サイトの試算。各回とも相続人は配偶者と子2人、法定相続分どおりに分け、配偶者の税額軽減だけを使い、小規模宅地等の特例や生前贈与は使わない前提。税率は国税庁 No.4155、計算手順は No.4152 による。
1億円の家は、3回の相続を経ても税で減るのは4%です。それでも「財産がなくなった」と感じるのは、子2人・孫4人・ひ孫8人と分かれていくからです。1億円を8人で分ければ1人1,200万円。税がゼロでも1,250万円です。一方で10億円は、ほぼ半分が税に消えます。言い伝えの正体は、財産規模で答えが変わる話を一つの言葉にしたものです。
計算の前提
- 家族は毎回「配偶者と子2人」。父が亡くなり(1回目)、母が亡くなり(2回目)、子が亡くなり(3回目)と続く。
- 財産は相続税の評価額で、増えも減りもしない。使わず、稼がず、贈与もしない。
- 分け方は法定相続分どおり。配偶者が2分の1、子が4分の1ずつ。
- 使う控除は基礎控除(3,000万円+600万円×法定相続人)と配偶者の税額軽減(1億6,000万円か法定相続分までは税0円)だけ[国税庁 No.4158]。
- 2回目の相続は、母が1回目に受け取った財産だけを対象にする(母自身の財産は0)。
現実にはもっと税は軽くなります。自宅の土地には小規模宅地等の特例(330㎡まで評価80%減)があり、10年以内に相続が続けば相次相続控除で前回の税の一部を差し引けます。あえて使わずに計算したのは、「対策をしなくてもこの程度」という下限を示すためです。計算の3ステップは相続税の税率と計算3ステップにまとめています。
1億円の家の3回の相続:税は1回目の395万円だけ
| 回 | 亡くなった人と財産 | 計算 | 税額 |
|---|---|---|---|
| 1回目 | 父・1億円 | 基礎控除4,800万円を引いた5,200万円を法定相続分で分けて税率を掛けると総額630万円。配偶者分の315万円は税額軽減で0円 | 子2人で315万円 |
| 1回目の続き | 母・5,000万円(父から受け取った分) | 基礎控除4,200万円を引いた800万円を子2人で分け、各400万円×10% | 子2人で80万円 |
| 2回目 | 子・4,802万円 | 基礎控除4,800万円とほぼ同額。配偶者分は軽減で0円 | ほぼ0円 |
| 3回目 | 孫・2,401万円 | 基礎控除4,800万円を下回る | 0円 |
父が亡くなった時点で母が家を相続すれば、配偶者の税額軽減で税は0円です。重いのは母が亡くなる2回目で、ここで子の1人が同居していれば小規模宅地等の特例が使えます。土地7,000万円・建物3,000万円の家なら、土地の評価が1,400万円に下がり、課税対象は200万円、税は20万円で済みます[国税庁 No.4124]。特例が使えないと770万円です。誰が家を相続するかで税が40倍近く変わる点は小規模宅地等の特例は誰が相続すれば使えるかで整理しています。
10億円の3回の相続:半分が税に消える
10億円では景色が変わります。1回目に父が亡くなると、基礎控除を引いた9億5,200万円を法定相続分で分けて税率を掛け、相続税の総額は3億5,620万円。配偶者分は軽減で0円ですが、子2人は1億7,810万円を納めます。続いて母が亡くなると、母が受け取った5億円に対して子2人で1億5,210万円。1回目だけで3億3,020万円、財産の33%が消えます。
子が受け取るのは1人3億3,490万円。これを2回目、3回目と繰り返すと、税の合計は4億8,477万円に達します。最高税率55%が掛かるのは法定相続分に応ずる取得金額が6億円を超える部分だけですが、40〜50%の帯が広いため、平均するとほぼ半分です。10億円を相続して2億円の納税資金に困る、という最近の報道は、この計算と整合します。
ここまでが「対策なし」の数字です。富裕層が資産管理会社や不動産を使って税額を下げるのは、この半分を減らすためです。その仕組みは富裕層の相続税対策の仕組みに書きました。
「3代でなくなる」は最高税率75%の時代の言葉
この言い伝えが生まれたころ、相続税はいまより重いものでした。財務省の資料によると、最高税率は1987年まで75%、1988年の改正で70%、2003年に50%へ下がり、2015年に55%へ戻っています。基礎控除は1994年から2014年まで「5,000万円+1,000万円×法定相続人」でしたが、2015年に「3,000万円+600万円×法定相続人」へ4割削られました[財務省 相続税の改正に関する資料]。
この2015年の改正が、言い伝えの向きを変えました。最高税率が下がって富裕層の「3代でなくなる」は昔ほどではなくなった一方、基礎控除の削減で課税される人の割合は2014年分の4.4%から2015年分に8.0%へ跳ね上がり、2024年分は10.4%で過去最高です。東京都では20.0%、23区では21.6%。5人に1人の家が申告する街になりました[国税庁 令和6年分 相続税の申告事績の概要]。富裕層向けの言葉を、普通の家が自分のことだと受け取るようになった背景です。
課税対象が広がった一因は地価の上昇ですが、基礎控除は2015年から10年以上据え置きです。所得税の基礎控除が物価に合わせて動く時代に、相続税の基礎控除だけが動かないのは、負担の重さとして指摘してよいところです。評価額と時価のずれが人によって税額を変える問題は、オーストリアが相続税を廃止した経緯とあわせてオーストリアは相続税を廃止したに書いています。
普通の家で財産を減らすのは、税ではなく「分ける」と「売る」
1億円の家の例で税は4%でした。それでも家は3回の相続を越えにくい。理由は2つです。
- 分割。家は1軒しかないのに相続人は2人、4人と増えます。1人が住み続けるなら、ほかの相続人に代償金を払うか、売って分けるかのどちらかです。税が0円でも財産は半分になります。
- 納税資金。令和6年分の相続財産のうち現金・預貯金は35%、土地は30%です。土地の割合が高い家ほど、税を払う現金が足りません。相続税の納期限は10か月で、原則は現金一括。延納は認められますが、不動産が75%以上を占める場合の利子税は年3.6%と5.4%で、担保も要ります[国税庁 No.4211]。
だから対策の順番は、税率を気にする前に「誰が家を引き継ぐか」と「納税資金をどこから出すか」を決めることです。使える仕組みは次の4つで、どれも国税庁の制度です。
- 配偶者の税額軽減:1回目の税を0円にできる。ただし2回目に全部回るので、1回目で子にも分けた方が合計は小さくなることがあります。配偶者の税額軽減1億6,000万円で3パターンを比較しています。
- 小規模宅地等の特例:自宅の土地を80%減で評価。同居か、持ち家のない子が引き継ぐ場合。
- 相次相続控除:10年以内に次の相続が起きたら、前回払った税の一部を今回の税から引ける[国税庁 No.4168]。父母が続けて亡くなった家では必ず確認を。
- 生前贈与と死亡保険金:年110万円の贈与は7年加算の範囲を外れれば相続財産から出ます。死亡保険金は500万円×法定相続人まで非課税で、現金で受け取れるので納税資金になります。この非課税枠は金融庁が令和9年度税制改正で引き上げを要望中です[財務省 令和9年度税制改正要望(金融庁)]。
まとめ
- 配偶者と子2人で3回の相続を繰り返すと、税に消えるのは1億円で4%、3億円で21%、10億円で48%。「3代でなくなる」は富裕層の言葉。
- 言い伝えは最高税率75%の時代のもの。2015年の基礎控除4割削減で課税対象は4.4%から10.4%へ広がり、東京は5人に1人。
- 普通の家の財産を減らすのは税ではなく、きょうだいで分けることと納税資金のための売却。
- 先に決めるのは「誰が家を引き継ぐか」と「納税資金」。配偶者軽減・小規模宅地・相次相続控除・死亡保険金の非課税枠を順に確認する。
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今後の改善の参考にさせていただきます。分かりにくかった点があれば、お問い合わせから教えていただけると嬉しいです。
出典・参考リンク
- 国税庁 No.4152 相続税の計算/No.4155 相続税の税率/No.4158 配偶者の税額の軽減
- 国税庁 No.4124 小規模宅地等の特例/No.4168 相次相続控除/No.4211 相続税の延納
- 国税庁 令和6年分 相続税の申告事績の概要(2025年12月):課税割合10.4%、課税価格23兆3,846億円、税額3兆2,446億円、相続財産の構成比
- 財務省 相続税の改正に関する資料/相続税の税率構造に関する資料
- 財務省 令和9年度税制改正要望(金融庁):死亡保険金の非課税限度額の引上げ、上場株式等の相続税の見直し
※ 本記事の税額は、記事中の前提に基づく本サイトの試算です。実際の税額は財産の評価、分け方、適用する特例で変わります。申告は税理士にご相談ください。









