富裕層の相続税対策の仕組み|不動産・資産管理会社・持株会社でなぜ税額が下がるのか

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日本の相続税は最高税率55%と世界トップクラス。ところが、資産数十億円の超富裕層ほど「現金のまま」相続することはまずありません。理由はシンプルで、相続税は資産の時価ではなく「相続税評価額」にかかるから。現金を不動産や非上場株式に変えるだけで、課税のモノサシそのものが小さくなります。この記事では、資産管理会社・持株会社・不動産化という定番の仕組みがなぜ税額を下げるのかを分解し、同時に、最高裁がタワマン節税を否認した「総則6項」という限界ラインまで、国税庁の一次情報をもとに中立に解説します。

大原則:相続税は「時価」ではなく「評価額」にかかる

相続税の計算では、財産を国税庁の「財産評価基本通達」のルールで金額に直します。ここに資産の種類ごとの大きな差があります。

資産の形相続税評価のされ方時価に対する目安
現金・預金額面どおり100%
上場株式市場価格(直近3か月の平均等を選択可)ほぼ100%
更地(自用地)路線価(公示価格の8割水準)約80%
賃貸アパート・貸家の土地建物貸家建付地・貸家の減額+建物は固定資産税評価約50〜70%
非上場株式(自社株)類似業種比準・純資産価額などの通達方式会社の中身しだいで大きく下がることも

1億円の現金は1億円として課税されますが、同じ1億円で買った賃貸不動産は評価5,000万〜7,000万円程度になることが珍しくありません。「資産の形を変える=課税のモノサシを変える」——これが富裕層の相続税対策のほぼすべての出発点です。相続税の基本的な仕組み(基礎控除3,000万円+600万円×法定相続人)は相続税の基礎控除と節税対策で解説しています。

手法①:不動産に変える——貸せば貸すほど評価が下がる

不動産の評価圧縮は3段階で効きます。

  1. 土地は路線価で約8割に。路線価は公示価格の8割水準に設定されています。
  2. 貸すとさらに下がる。賃貸アパートの敷地(貸家建付地)は「自用地評価 ×(1 − 借地権割合 × 借家権割合30% × 賃貸割合)」。借地権割合70%の地域なら約21%引きです。建物も固定資産税評価額(建築費の5〜6割が目安)からさらに借家権割合30%が引かれます。
  3. 小規模宅地等の特例。要件を満たせば、自宅の土地は330㎡まで80%減、賃貸事業の土地は200㎡まで50%減。ただし相続開始前3年以内に貸し始めた土地は原則対象外です(駆け込み封じ)。

ざっくり計算例:現金2億円 → 賃貸マンション1棟

土地1億円分 → 路線価8,000万 → 貸家建付地で約6,300万
建物1億円分 → 固定資産税評価 約5,500万 → 貸家で約3,850万
評価合計 約1億150万円(現金のままより約49%圧縮)+要件を満たせば小規模宅地でさらに減

※借地権割合70%・賃貸割合100%・建物評価55%と仮定した概算。実際は物件・地域で大きく変わります。

タワマン節税はルールが変わりました。タワーマンション高層階は時価と評価額の乖離が特に大きく(平均で時価の約4割まで下がった)、定番の圧縮手段でしたが、令和6年1月1日以後に相続・贈与で取得した分譲マンションには新しい評価ルールが適用されます。市場価格との乖離を「評価乖離率」で補正し、評価水準が6割未満のマンションは最低でも市場価格の約6割まで評価が引き上げられます。それでも4割の圧縮余地は残るため、マンション節税が消えたわけではありませんが、かつてほどの効果はありません。

手法②:資産管理会社——財産を「非上場株式」に変える

資産家が資産管理会社(プライベートカンパニー)をつくる理由も、評価のモノサシの変更です。個人で持つ不動産や有価証券を会社に移すと、相続財産は「不動産・株そのもの」ではなく「その会社の株式(非上場株式)」になります。

  • 非上場株式は通達の計算式で評価される。会社規模に応じて「類似業種比準方式」(上場している同業種の株価に、自社の配当・利益・純資産の3要素を当てはめて計算)と「純資産価額方式」を組み合わせます。類似業種比準には斟酌率(大会社0.7・中会社0.6・小会社0.5)が掛かるため、利益や配当を抑えた会社の株式評価は大きく下がる傾向があります。
  • 相続財産を「分けやすくなる」。不動産そのものは分割しにくいですが、株式なら1株単位で贈与・分割できます。毎年の暦年贈与で少しずつ次世代へ移すのが定番です。
  • 所得の分散にもなる。家族を役員にして役員報酬を払えば、生前から所得と財産の移転が進みます(役員報酬の適正額は役員報酬の決め方を参照)。

株式会社と合同会社、どちらでつくるか

 株式会社合同会社
設立コスト約20万円〜(定款認証+登録免許税15万円〜)約6万円〜(認証不要・登録免許税6万円〜)
相続時の承継株式は当然に相続財産として承継定款に定めがないと持分は承継されない(会社法607条・608条)
注意点役員任期・決算公告などの維持コスト定めなしで唯一の社員が死亡すると会社は解散(会社法641条)。相続人が受け取るのは「持分払戻請求権」となり、純資産ベースで評価されるためかえって高い評価になることも
合同会社の落とし穴

設立費用の安さから資産管理会社を合同会社にする例が増えていますが、定款に「社員が死亡した場合は相続人が持分を承継する」旨の定めを置いていないと、相続人は社員の地位を引き継げず、持分の払戻請求権(純資産価額ベース)を相続することになります。類似業種比準による評価引き下げが使えず、対策のつもりが逆効果になりかねません。合同会社で組むなら定款の相続条項が生命線です。

法人化の損益分岐や設立実務は法人化のタイミング会社設立の費用で詳しく解説しています。

手法③:持株会社(ホールディングス)——自社株の評価を止める・下げる

会社オーナーの相続財産で最大になりがちなのが自社株です。業績のよい会社の株式評価は年々膨らみ、放置すると「株はあるが現金がない」状態で数億円の相続税が発生します。そこで使われるのが持株会社スキームです。

  1. 後継者が持株会社を設立し、金融機関からの借入などで先代から事業会社株式を買い取る。
  2. 先代の手元では株式が現金(譲渡代金)に変わり、以後の株価上昇は持株会社側に蓄積される(先代の相続財産がそれ以上膨らまない)。
  3. 持株会社は事業会社からの配当で借入を返済していく。

ただし、ここには専門の判定ルールがあります。総資産に占める株式等の割合が50%以上になると「株式等保有特定会社」と判定され、評価が原則純資産価額方式(高くなりやすい)に固定されます。これを避けるために不動産など他の資産を持たせて割合を下げる、いわゆる「株特外し」が行われますが、相続直前の形式的な資産の入れ替えは、課税実務で「なかったもの」と判定されるリスクが明示されています。

なお、後継者への自社株承継には事業承継税制(特例措置)という納税猶予制度もあります。対象株式の全部について相続税・贈与税の納税が100%猶予される強力な制度で、入口となる特例承継計画の提出期限は2027年9月30日まで延長されました(贈与・相続の実行は2027年12月31日まで。最新の期限は中小企業庁の公式情報で確認してください)。

手法④:時間を使う——贈与・保険の「王道」も並行する

評価圧縮と並ぶもう1つの柱が「時間をかけた移転」です。超富裕層ほど、派手なスキームより先にこちらを徹底しています。

  • 暦年贈与:毎年110万円までの贈与税基礎控除。ただし2024年からルールが変わり、相続財産への持ち戻し(生前贈与加算)が3年→7年に段階的に延長されています(2026年末までの相続は実質3年のまま、2027年以降じわじわ延び、2031年から完全に7年。延長4年分は総額100万円まで加算されません)。
  • 相続時精算課税:2024年から毎年110万円の基礎控除が新設され、この範囲内の贈与は申告不要・持ち戻しもなし。値上がりが見込まれる資産を早めに移す設計にも使われます。
  • 生命保険:死亡保険金には500万円 × 法定相続人の非課税枠。納税資金の準備と評価圧縮を兼ねる定番です。
  • 子や孫の人数で枠が増える:基礎控除・保険非課税枠・贈与の受け皿はいずれも人数に比例します。孫への教育資金一括贈与(1,500万円非課税)のような世代飛ばしも組み合わされます。

限界ライン:最高裁が否認した「行き過ぎた節税」

ここまでの手法はすべて通達どおりの評価に基づく合法な仕組みです。ただし国税庁には最後の切り札があります。財産評価基本通達「総則6項」——通達どおりの評価が「著しく不適当」な場合、国税庁長官の指示で別の評価(不動産鑑定など)に置き換えられる規定です。

最高裁令和4年4月19日判決(いわゆるタワマン節税訴訟)

被相続人が晩年に約10億円超を借り入れて約14億円のマンション2棟を購入。相続人は路線価ベースで約3.3億円と評価し、借入金と相殺して相続税をほぼゼロで申告しました。国税側は総則6項を適用して不動産鑑定(約12.7億円)で評価し直し、2億円を超える追徴。最高裁は「近い将来の相続を見越し、税負担を減らす目的で行われた購入」と認定し、国側の勝訴が確定しました。

この判決以降の実務では、①相続の直前期に、②多額の借入を伴って、③節税目的が明白な形で行われた資産の組み替えは、通達評価が否認されうる、というのが共通理解です。前述のマンション評価の新ルール(令和6年〜)も、この判決を受けた制度側の対応です。かつて流行した一般社団法人への財産移転も平成30年度改正で封じられており、「効きすぎるスキームは、いずれ塞がれるか否認される」のが歴史の教訓です。この流れは消えた節税スキーム列伝節税スキーム商品の検証で詳しく追っています。

スキーム以前のリスクも忘れずに

  • 流動性リスク:不動産・非上場株に変えるほど、納税資金の現金が足りなくなります。相続税は原則10か月以内の現金一括納付です。
  • 分割リスク:分けにくい資産は「争族」の火種になります。節税額より弁護士費用が大きくなった例は珍しくありません。
  • コスト:法人の維持(税理士報酬・社会保険・均等割)、不動産の管理・空室リスク。節税額とランニングコストの比較が先です。
  • 名義だけの対策は無効:実態のない名義変更は課税を免れません(名義預金とタンス預金)。

一般家庭に関係あるのはどこか

数十億円の資産がなくても、同じ原理の「合法版・縮小版」は誰でも使えます。

  • 小規模宅地等の特例(自宅330㎡まで80%減)——実家を相続する多くの家庭で最大の節税要素
  • 生命保険の非課税枠500万円×法定相続人
  • 暦年贈与110万円相続時精算課税の新110万円控除の使い分け
  • 相続財産が基礎控除(3,000万円+600万円×法定相続人)以下なら、そもそも相続税はかかりません

日本の相続税がなぜここまで高いのかという制度の背景はなぜ日本の相続税は世界一なのか、各国との比較は世界の相続税比較をどうぞ。

今日やること

  1. 自分の資産を「現金・上場株・不動産・自社株」に分けて一覧にし、それぞれのおおよその相続税評価額を書き出してみる(土地は路線価×面積が出発点)
  2. 相続財産の合計が基礎控除(3,000万円+600万円×法定相続人)を超えそうか確認する
  3. 超えそうな場合、対策の実行前に相続専門の税理士に「納税資金・分割・評価」の3点セットで相談する(総則6項リスクの判断は専門家でも意見が分かれる領域です)

よくある質問

Q. 資産管理会社をつくれば必ず相続税は下がりますか?

A. 必ずではありません。会社の利益・純資産が積み上がると株式評価はむしろ上がりますし、法人の維持コスト(税理士報酬・住民税均等割・社会保険)が節税額を上回る規模では逆効果です。目安として、資産や所得の規模が小さいうちは個人のまま王道の対策(贈与・保険・小規模宅地)を使うほうが有利なことが多いです。

Q. タワマン節税はもう使えないのですか?

A. 効果が縮小して残っています。令和6年1月以後に取得した分譲マンションは、評価額が市場価格の約6割未満にならないよう補正されます。約4割の圧縮余地は残りますが、相続直前の借入による駆け込み購入は最高裁判決(総則6項)で否認されるリスクがあります。

Q. 合同会社と株式会社、資産管理会社にはどちらがよいですか?

A. 設立・維持コストでは合同会社が安い一方、相続では株式会社が単純です。合同会社は定款に持分承継の定めがないと相続人が社員の地位を引き継げず、唯一の社員なら会社の解散事由になります。合同会社で組む場合は、設立時に定款へ相続条項を入れることがほぼ必須と考えてください。

Q. どこからが「行き過ぎた節税」として否認されますか?

A. 明確な金額基準はありませんが、最高裁判決で重視されたのは「相続の直前期であること」「多額の借入を伴うこと」「節税以外の合理的な目的が乏しいこと」の組み合わせです。長期間かけた資産運用としての不動産投資や事業承継はこれに当たりにくく、時間をかけた対策ほど安全といえます。個別の判断は必ず税理士に相談してください。

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公開日:2026年08月11日 / 執筆:みんなの税金 編集部

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