この記事の更新情報
- 公開。厚生労働省「健康保険法等の一部を改正する法律」概要・本文(令和8年法律第31号)、第218回社会保障審議会医療保険部会 資料2(2026年10月16日)、「妊娠・出産・産後における診療やケアの内容等に関する検討会」第1回資料(10月1日)、協会けんぽ「出産育児一時金について」、国税庁 No.1124、日本経済新聞(10月16日)をもとに作成
正常な出産の費用を公的医療保険から払う「出産費用の無償化」は、2026年5月29日に成立した改正健康保険法(令和8年法律第31号・6月5日公布)で決まっています。開始は「公布から2年以内に政令で定める日」=2028年6月4日までで、日経は10月16日、厚生労働省が2027年度後半の開始を検討していると報じました[厚生労働省 健康保険法等の一部を改正する法律 本文(PDF)]。
同じ10月16日の社会保障審議会医療保険部会で、厚労省は制度の骨格を示しました。国が全国同水準の「基本単価」を決めて保険者が施設に直接払い(分娩費)、それとは別に全妊婦へ定額の現金給付(出産時一時金)を行う。金額は12月ごろにまとめ、中医協に諮問します[厚生労働省 第218回医療保険部会 資料2(PDF)]。「2027年4月から無料」という情報は誤りで、改正法本体の施行と出産の部分の施行は別の日程です。
結論:現行の一時金50万円と新制度の違い——決まったこと・検討中のこと・報道だけのこと
| 現行(出産育児一時金) | 新制度 | 根拠 | |
|---|---|---|---|
| 給付の形 | 1児50万円を一時金で支給。直接支払制度で施設に払うのが一般的 | ①分娩費:国が決めた標準的な費用を保険者が施設に直接払う(現物給付)②出産時一時金:全妊婦に定額の現金給付 | 法律で決定(健保法 新98条の2・101条) |
| 金額 | 50万円(産科医療補償制度の掛金1.2万円を含む。在胎22週未満は48.8万円) | 分娩費は厚労大臣が告示、一時金は政令。どちらも未定。報道では「50万円から引き上げ」 | 金額は検討中・報道 |
| 妊婦の負担 | 費用が50万円を超えた分は自己負担。下回れば差額が本人に支給 | 基本単価の範囲は負担なし。個室料などアメニティは自己負担で見える化。一時金が分娩費より多ければ差額を本人に支給 | 法律+部会資料 |
| 対象 | 健保・国保・共済の被保険者と被扶養者 | 同じ。被扶養者は家族分娩費、国保は国保法54条の5。退職後6か月以内の出産も対象(1年以上加入が条件) | 法律で決定 |
| 施設側 | 出産なびへの情報提供は任意 | 分娩の内容と費用を事前に妊婦へ説明し、国に報告する義務。国が分かりやすく公表 | 法律で決定(98条の22・23) |
| 経過措置 | — | 届け出た施設は「当分の間」現行の一時金のまま(特例分娩取扱施設)。施行日前の出産は現行制度 | 法律で決定(附則14・15条) |
| 開始時期 | 2023年4月から50万円 | 2028年6月4日までに政令で定める日。報道では2027年度後半 | 期限は法律、時期は報道 |
※改正法本文(附則1条6号・14条・15条、健康保険法 新98条の2〜98条の24・101条・112条の2)と第218回医療保険部会 資料2にもとづく。協会けんぽの現行ルールは[協会けんぽ 出産育児一時金]。
出産費用はいくらか——平均52.0万円、東京64.8万円・熊本40.4万円、半数以上が50万円超
厚労省の集計では、保険診療を伴わない出産の平均費用(個室料・産科医療補償制度の掛金などを除く)は2024年度で52.0万円、2023年度の50.7万円から上がりました。都道府県別では東京都64万8,309円が最高、熊本県40万4,411円が最低です。個室料などを含めた妊婦の負担合計は、東京都75万4,243円、熊本県46万634円でした[厚生労働省 検討会 第1回 資料2(PDF)]。
| 区分(2024年度・保険診療なし) | 平均出産費用 |
|---|---|
| 全施設 | 52.0万円 |
| 公的病院 | 48.4万円 |
| 私的病院 | 53.7万円 |
| 診療所(助産所を含む) | 52.6万円 |
| 東京都(最高) | 64.8万円 |
| 熊本県(最低) | 40.4万円 |
協会けんぽの2025年度データ(産科医療補償制度の掛金を含む定義)では、保険診療を伴わない出産の平均は52万8,554円で、区分別の件数を足すと6割超が50万円以上です[同 資料3(PDF)]。一時金50万円では足りない人が多数派になったことが、無償化の背景です。施設ごとの費用は出産なびで調べられます。
無料になるもの・ならないもの——基本単価の範囲は無料、個室代などは自己負担、帝王切開は保険診療のまま
部会資料の図では、新制度での妊婦の負担は3層に分かれます。
- 分娩の手当(正常分娩):国が全国同水準の基本単価を決め、施設の体制・役割を評価した加算を乗せ、保険者が施設に直接払う。妊婦の負担はなし。
- 保険診療(帝王切開などの異常分娩):従来どおり療養の給付(原則3割負担・高額療養費の対象)。この一部負担金を軽くするために、全妊婦への定額の現金給付(出産時一時金)を別に置く。
- アメニティ等のサービス:個室料・食事のグレードなどは自己負担のまま。施設に事前説明と国への報告を義務づけ、見える化を徹底する。
無痛分娩の扱いは、国会の附帯決議に「安全な提供体制の確保」が盛り込まれていますが、基本単価に含めるかどうかは資料に書かれていません。12月の成案で決まる論点です。
基本単価と現金給付の水準、保険料財政への影響は、10月1日に始まった「妊娠・出産・産後における診療やケアの内容等に関する検討会」(月1〜2回、全国2,139施設の実態調査と分娩経験者約2,000人の調査を実施)の整理を待って決めます[厚生労働省 検討会]。
一時金はどうなるか——「出産時一時金」に名前が変わり、分娩費の残りを施設に払って余れば本人へ
出産育児一時金は廃止ではなく、「出産時一時金」に名前と中身が変わります(健保法101条の改正)。金額は政令で決めます。保険者は、分娩費で払った分を除いた残りの出産費用を施設に払い、一時金のほうが多ければ差額を本人に支給します。つまり基本単価で足りる施設で産めば、一時金は丸ごと手元に残る設計です。
注意したいのは経過措置です。新制度が始まった後も、厚労大臣に届け出た施設は「当分の間」現行の出産育児一時金で精算を続けられます(特例分娩取扱施設・附則15条)。参議院の附帯決議は「できる限り多くの分娩施設が新たな給付体系を選択するよう促す」としていますが、施設によって制度が違う時期が続く可能性があります。産む施設がどちらかは、施設の事前説明と出産なびで確かめることになります。
いつ産む人に関係するか——施行日の前日までは現行制度、退職後6か月以内も対象
- 施行日より前の出産:現行の出産育児一時金50万円で精算します(附則14条)。報道どおり2027年度後半に始まるなら、2027年前半までの出産は現行です。
- 施行日以降の出産:新制度の施設なら分娩費+出産時一時金、特例分娩取扱施設なら現行の一時金。
- 退職後の出産:退職日の前日まで1年以上加入していれば、退職後6か月以内の出産は元の健康保険から分娩費が出ます(新98条の24)。現行の一時金と同じ条件です。
- 国保の人:国保法54条の5で同じ分娩費が入ります。金額は健保法の定めの例によります。
出産のタイミングを制度に合わせて動かす必要はありません。差が出るのは「出産費用が50万円を大きく超える施設で産む人」で、新制度のほうが自己負担は減る方向です。金額が未定なので、12月の成案が出たら本記事を更新します。
税金とほかの給付——医療費控除は自己負担が減ったぶん縮む、妊婦のための支援給付10万円は別枠
出産費用は医療費控除の対象ですが、出産育児一時金は補填として差し引きます(出産手当金は差し引かない)[国税庁 No.1124 医療費控除の対象となる出産費用の具体例]。新制度で自己負担が減れば、医療費控除に入れられる額もそのぶん減ります。妊娠が分かってからの検診費・通院費、入院時のタクシー代、入院中の食事代は対象のままです。
こども家庭庁の妊婦のための支援給付(5万円+5万円×人数)は今回の制度とは別で、そのまま受け取れます。産休中の出産手当金・育休給付・社会保険料免除の全体は出産・育児でもらえるお金まとめと出産手当金はいくら・いつ振り込まれるかで整理しています。
まとめ
- 出産費用の無償化は改正健康保険法(2026年5月成立・6月5日公布)で決定。開始は「公布から2年以内」=2028年6月4日まで。報道では2027年度後半
- 仕組みは、国が全国同水準の基本単価を決めて保険者が施設に直接払う「分娩費」+全妊婦への定額の現金給付「出産時一時金」。金額は12月ごろに成案、中医協に諮問
- 基本単価の範囲は負担なし。個室料などアメニティは自己負担で見える化、帝王切開などは保険診療のまま。無痛分娩の扱いは未定
- 平均出産費用は2024年度52.0万円(東京64.8万円・熊本40.4万円)で、6割超が一時金50万円を超える
- 届け出た施設は当分の間、現行の一時金のまま(特例分娩取扱施設)。施行日前の出産は現行制度、退職後6か月以内の出産も対象
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参考リンク(出典)
- 厚生労働省「健康保険法等の一部を改正する法律の概要」(PDF)・法律本文(PDF)——分娩費(新98条の2〜24)、出産時一時金(101条)、家族分娩費(112条の2)、施行期日(附則1条6号)、経過措置(附則14・15条)
- 厚生労働省「第218回社会保障審議会医療保険部会 資料」(2026年10月16日)・資料2 出産に関する支援(PDF)
- 厚生労働省「妊娠・出産・産後における診療やケアの内容等に関する検討会」・第1回(2026年10月1日)資料・資料2 出産費用の現状(PDF)・資料3 協会けんぽデータ(PDF)
- 厚生労働省「出産なび」
- 全国健康保険協会「出産育児一時金について」
- 国税庁 タックスアンサー No.1124「医療費控除の対象となる出産費用の具体例」
- 日本経済新聞「出産無償化は27年度後半に開始、新制度は50万円から増額 厚労省検討」(2026年10月16日)——開始時期・増額の報道
※本記事は2026年10月16日時点の法律と厚生労働省の公表資料にもとづく一般的な情報提供です。開始日と金額は政令・告示で確定します。個別の判断は加入する健康保険の保険者や専門家にご確認ください。









