「売上1,100万円(税込)・経費330万円(税込)だと、消費税はいくら取られるの?」という質問は、個人事業主・フリーランスからよく聞かれます。答えは1つではありません。あなたが課税事業者である前提でも、選ぶ計算方法によって納める消費税は20万円から70万円まで変わります。この記事では、税込を税抜に分解する考え方から、本則課税・簡易課税・2割特例・3割特例の4方式を、この具体的な数字でそのまま計算します。
まず早見表:このケースの消費税
売上1,100万円(税込)・経費330万円(税込)を、4つの計算方式で計算するとこうなります(年あたり・概算)。
| 計算方式 | 消費税(年・概算) | 使える人 |
|---|---|---|
| 本則課税(原則) | 70万円 | 課税事業者すべて |
| 簡易課税(サービス業・第5種) | 50万円 | 売上5,000万円以下+届出 |
| 簡易課税(製造・建設・第3種) | 30万円 | 同上 |
| 2割特例 | 20万円 | インボイスで免税→課税になった人(令和8年分まで) |
| 3割特例 | 30万円 | 個人事業者・同上(令和9・10年分) |
同じ売上・経費でも、立場と方式でこれだけ差が出ます。以下で1つずつ計算します。
大前提:そもそも消費税を納めるのは誰か
消費税を納めるのは課税事業者です。次のどちらかに当てはまる人が課税事業者になります[国税庁 No.6501]。
- 基準期間(2年前)の課税売上高が1,000万円を超える事業者(自動的に課税事業者)
- インボイス(適格請求書)発行事業者の登録をした人(売上に関係なく課税事業者)
税込1,100万円は、税抜にするとちょうど1,000万円です。納税義務は2年前(基準期間)の課税売上高で判定し、その年が免税事業者だった場合は税込(1,100万円)で、課税事業者だった場合は税抜(1,000万円)で判定します。前者なら1,000万円超で課税事業者に、後者は1,000万円ちょうどで「超」えず免税のまま、と結論が分かれます。この記事は「今年は課税事業者である(または インボイス登録済み)」前提で消費税額を計算します。
計算の出発点:税込を税抜に分解する
消費税の計算は、まず売上・経費を「本体価格」と「消費税」に分けるところから始まります。税込金額を 1.1で割る と税抜(本体)が出ます。
この100万円が「預かった消費税」(仮受消費税)。お客様から預かって、いずれ国に納めるお金です。
この30万円が「支払った消費税」(仮払消費税)。仕入や経費を払うときに、こちらが負担した消費税です。
差し引けるのは消費税がかかっている経費(課税仕入)だけです。給与・賞与、社会保険料、税金(租税公課)、保険料、借入金の利息などは消費税の対象外で、いくら払っても差し引けません。この記事は計算を分かりやすくするため経費330万円すべてを課税仕入と仮定しています。人件費が多い事業ほど、実際に引ける消費税は小さくなります。
※飲食料品など軽減税率8%の売上・仕入がある場合は税率が異なります。ここでは標準税率10%で計算しています。
① 本則課税(原則課税):70万円
本則課税は、預かった消費税から、実際に支払った消費税を差し引くもっとも素直な方法です[国税庁 No.6351]。
経費の消費税を実額で引くので、経費(課税仕入)が多い年・大きな設備投資をした年ほど納税は減ります。逆に人件費中心で課税仕入が少ないと、納税は増えます。インボイスの保存と正確な記帳が必要です。
※実際は国税分7.8%・地方分2.2%に分けて端数処理するため、数百円〜数千円の差は出ます。本記事は概算です。
② 簡易課税:業種で決まる(経費は無関係)
簡易課税は、実際の経費を見ずに、売上の消費税に業種ごとの「みなし仕入率」をかけて概算します。経費330万円がいくらであっても結果は変わりません。基準期間の課税売上高が5,000万円以下で、事前に届出をした事業者が選べます[国税庁 No.6505]。
このケース(売上の消費税100万円)を業種別に計算すると、こうなります[国税庁 No.6509]。
| 事業区分 | 主な業種 | みなし仕入率 | このケースの納付 |
|---|---|---|---|
| 第1種 | 卸売業 | 90% | 10万円 |
| 第2種 | 小売業・農林漁業(飲食料品) | 80% | 20万円 |
| 第3種 | 製造業・建設業 | 70% | 30万円 |
| 第4種 | 飲食店業など | 60% | 40万円 |
| 第5種 | サービス業・運輸・金融保険 | 50% | 50万円 |
| 第6種 | 不動産業 | 40% | 60万円 |
一方、製造業(第3種・70%)なら 100万円 × 30% = 30万円。実際の課税仕入がみなし仕入率より少ないほど、簡易課税が有利という関係です。考え方の詳細は 消費税の簡易課税と本則課税 で解説しています。
※簡易課税は事前届出が必要で、選ぶと2年間は継続適用。大きな設備投資をしても消費税の還付は受けられません。
③ 2割特例:20万円(令和8年分まで)
インボイス制度をきっかけに免税事業者から課税事業者になった人は、当面のあいだ2割特例(納付=売上の消費税×20%)が使えます[国税庁 2割特例]。
経費の集計も届出も不要で、売上だけで計算できるのが利点。4方式でもっとも納税が小さくなります。
2割特例が使えるのは令和5年10月1日から令和8年9月30日を含む課税期間まで。個人事業主なら令和8年分(2026年分・申告は2027年3月)が最後です。また、2割特例は基準期間の課税売上高が1,000万円以下であることが条件のため、基準期間が免税で売上1,100万円(税込)だった年は、判定上1,000万円超となり対象外になる場合があります。
④ 3割特例:30万円(個人の令和9・10年分)
2割特例の終了後、個人事業者向けに3割特例が新設されました。令和9年分・令和10年分(2027・2028年分)の申告で、納付を売上の消費税×30%にできます。対象は「インボイス登録で免税から課税になった個人事業者で、基準期間の課税売上高が1,000万円以下の人」です[国税庁 令和8年度改正]。
2割特例(20万円)より少し増えますが、本則課税(70万円)や多くの業種の簡易課税より有利です。令和9・10年分の経過措置として使えます。
結局、このケースはどれを選べばいい?
2割・3割特例が使えるなら最優先
- インボイスで免税→課税になった人は 2割特例(20万円・令和8年分まで)
- 個人事業主は 令和9・10年分に3割特例(30万円)
- 売上だけで計算でき、届出も不要
特例が使えない・終わったら
- 簡易課税(このケースで10万〜60万円)と本則課税(70万円)を試算して比較
- 経費・課税仕入が少ない業種は簡易課税が有利になりやすい
- 大きな設備投資の年は本則課税(還付の可能性)
簡易課税を使うには適用したい年の前年末までに届出が必要です。特例の終了に合わせて、早めに試算しておきましょう。
納めた消費税と、払うタイミング
納付した消費税は、所得税の計算上は必要経費(租税公課)になります(税込経理の場合)。消費税を払うぶん、翌年の所得税・住民税は少し下がる関係です。自分の所得税の目安は 税金計算ツール でも確認できます。
個人事業主の消費税の申告・納付期限は翌年3月31日(所得税の3月15日より少し後ろ)。前年の消費税額が一定以上だと、年の途中に中間申告(予定納税)が必要になります。納付月は 税金カレンダー で確認できます。
よくある質問
売上1,100万円(税込)なら、必ず消費税を払うの?
必ずではありません。消費税の納税義務は2年前(基準期間)の課税売上高で判定します。その年が免税事業者なら税込1,100万円で判定して1,000万円超のため課税事業者に、課税事業者なら税抜1,000万円で判定して「超」えず免税のまま、と分かれます。ただしインボイス登録をしていれば売上に関係なく課税事業者です。
経費330万円は、全額が消費税の控除に使えるの?
いいえ。差し引けるのは消費税がかかっている経費(課税仕入)だけです。給与・社会保険料・税金・保険料・借入金利息などは対象外で差し引けません。本記事は分かりやすさのため全額を課税仕入と仮定しています。
このケースで一番得な計算方法は?
2割特例が使えるなら20万円で最少です(令和8年分まで)。個人事業主は令和9・10年分に3割特例で30万円。特例が使えない場合は、業種に応じて簡易課税(10万〜60万円)と本則課税(70万円)を試算して有利なほうを選びます。
消費税はいつ払うの?
個人事業主は翌年3月31日が申告・納付期限です。前年の消費税額が48万円を超えると、年の途中に中間申告(予定納税)が必要になります。
まとめ
参考リンク(出典)
本記事は次の国税庁の公表資料をもとに作成しています(中立・一次情報)。税率・特例は改正されるため、申告前に最新の内容をご確認ください。
- 国税庁 No.6351 納付税額の計算のしかた(本則課税)
- 国税庁 No.6505 簡易課税制度
- 国税庁 No.6509 簡易課税制度の事業区分
- 国税庁 No.6501 納税義務の免除(基準期間と判定)
- 国税庁 2割特例の概要
- 国税庁 令和8年度税制改正特集(インボイス・3割特例)
※本記事は一般的な情報提供であり、税務アドバイスではありません。個別の判断は税務署・税理士にご確認ください。







