アメリカの医療費はなぜ破産級?高額療養費のない世界と日本の守り

カテゴリ:制度・ニュース

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シリーズ:世界のユニーク税制・社会保険 #2

2026年8月、日本では高額療養費の限度額が引き上げられ、「月の医療費の上限」が話題になりました。では、その上限がそもそも存在しない世界では何が起きるのか。アメリカでは、国民の約12人に1人が医療債務を抱え、医療債務の総額は少なくとも2,200億ドル(約33兆円)にのぼるという推計があります。虫垂炎の1日入院で1万ドル超——「保険に入っていても破産する」構造を一次情報で分解し、日本の高額療養費のありがたみと、旅行・駐在で米国の医療費に直面する日本人の備えを整理します。

アメリカの医療費:数字で見る現実

項目数字
医療債務の総額少なくとも2,200億ドル(KFF=米カイザー家族財団の分析・2021年連邦調査データ)
医療債務を抱える人約2,000万人(250ドル超の債務・成人の約12人に1人)。うち300万人は1万ドル超
虫垂炎の手術(1日入院)1万ドル(約150万円)超の請求例(在ニューヨーク日本国総領事館)
入院費1日あたり1万〜2万ドルに及ぶことも(外務省・ニューヨーク医療事情)

日本なら虫垂炎の手術・入院は3割負担でも十数万円、高額療養費を使えば一般的な収入の人で月9万円前後が上限です。同じ病気で、家計へのダメージが1桁違う——これがこの記事のテーマです。

なぜそうなるのか:公的な「皆保険」がない

アメリカには日本のような全国民共通の公的医療保険がありません。医療保険は原則「雇用主が福利厚生として提供するもの」で、公的保険は高齢者向けのメディケアと低所得者向けのメディケイドなどに限られます。オバマケア(ACA)で無保険者は減りましたが、今も数千万人規模が無保険です。

そして重要なのは、保険に入っていても自己負担が重いことです。

  • 免責額(デダクティブル):年間数千ドルまでは全額自己負担で、保険はそこから先しか効かないプランが一般的
  • 自己負担上限が高い:ACAの基準では、2026年プランの年間自己負担上限は個人10,600ドル(約160万円)・家族21,200ドル。日本の高額療養費の「月9万円前後」とは桁が違ううえ、これは「上限がある恵まれたプラン」の話です
  • ネットワーク外請求:契約外の病院・医師にかかると上限すら効かず、救急搬送先がたまたま契約外だった、という事故が起きる
  • 保険料自体も高い:家族向けの雇用主提供保険は年2万ドル超が珍しくなく、失職すると保険も同時に失う

結果:医療費が家計破綻の引き金になる

  • 2019年の米公衆衛生学会誌の研究では、自己破産を申し立てた人の約3人に2人が「医療費または病気による収入減」を理由に挙げたと報告されています(一方で、医療費が「直接の原因」となった破産はもっと少ないとする経済学の研究もあり、規模については論争があります)
  • 破産に至らなくても、受診控えが起きます。費用を理由に治療や薬を諦めた経験を持つ米国の成人は数割にのぼるという調査が繰り返し報告されています
  • 医療債務が信用スコアを傷つけ、住宅・自動車ローンに響く二次被害も問題化し、信用情報から医療債務を除外する動きが州・連邦レベルで進んでいます

「保険がある国」でも起きている、という怖さ

医療債務を抱える人の多くは無保険者ではなく、保険加入者です。免責額・上限・ネットワーク外という3つの穴があるかぎり、「保険に入っている=安心」にはならない——これが米国の20年来の教訓です。

日本との比較:高額療養費は「破産防止装置」

アメリカ日本
公的保険高齢者・低所得者など限定国民皆保険(窓口1〜3割)
月の自己負担上限プラン次第。ACA基準で年10,600ドル(個人)高額療養費で所得に応じ月数万〜(2026年8月に改定)
収入が絶たれたら失職=保険喪失のリスク傷病手当金(給与の約3分の2・通算1年6か月)
医療費による破産破産理由の上位に医療費が並ぶ医療費単独での破産は例外的

2026年8月の改定で日本の限度額は引き上げられましたが、それでも「月収の大半が医療費で消えない」仕組みは維持されています。使い方は高額療養費制度の解説限度額適用認定証・マイナ保険証の記事にまとめています。制度に不満を持ったときこそ、「無い世界」との比較が判断の物差しになります。

日本人に関係するケース:旅行・駐在の備え

  • 米国旅行は「治療費用」の補償額で保険を選ぶ:入院が1日1万ドル級である以上、治療費用の補償は無制限(または1億円以上)が安心圏です。数百万円の補償では集中治療の数日で突き抜けます
  • クレジットカード付帯保険は限度額を確認:付帯の治療費用は50万〜300万円程度が多く、米国では明らかに不足。渡航前に別途の海外旅行保険で上乗せを
  • 駐在員は会社の保険プランの3点を確認:①免責額②年間自己負担上限③ネットワーク(提携病院)。家族帯同ならなおさらです
  • 海外転出すると日本の高額療養費は使えない:住民票を抜いて国保・健保から外れると日本の制度は使えません。海外赴任時の社会保険の扱いは赴任前に会社と確認を

今日やること

今日やること

  1. 次の海外旅行の保険を確認する(治療費用の補償額と、クレカ付帯だけで足りるか)
  2. 自分の高額療養費の区分(月の限度額)を保険者のサイトか給与明細の標準報酬月額から確認する
  3. 会社員なら傷病手当金(給与の約3分の2)の存在を家族と共有しておく——「日本には収入の防波堤もある」と知っているだけで民間医療保険の入りすぎを防げます

よくある質問

Q. アメリカの自己破産の原因は本当に医療費が1位なのですか?

A. 「破産申立人の約3人に2人が医療費や病気による収入減を理由に挙げた」とする2019年の研究がある一方、医療費が単独の直接原因となった破産はもっと少ないとする研究もあり、割合には論争があります。ただし医療債務が家計悪化の主要因のひとつであること自体は、党派を問わず共有されている認識です。

Q. オバマケアで問題は解決しなかったのですか?

A. 無保険者は大きく減りましたが、免責額や自己負担上限の高さ、ネットワーク外請求といった「保険に入っていても重い」構造は残っています。医療債務を抱える人の多くは保険加入者です。

Q. 日本の高額療養費も2026年8月に引き上げられました。同じ方向に向かっているのでは?

A. 限度額の引き上げは負担増ですが、「所得に応じた月額上限」という仕組み自体は維持されています。米国のように上限が年160万円相当だったり、そもそも効かない請求があったりする構造とは段違いです。

Q. 米国旅行の保険はいくらの補償があれば安心ですか?

A. 治療費用は無制限か1億円以上が目安です。入院が1日1万〜2万ドルに及ぶことがあり、集中治療や医療搬送が絡むと数千万円の請求例もあるためです。クレジットカード付帯保険だけでは大半のケースで不足します。

参考リンク(出典)

※ 米国の金額は1ドル=150円で概算しています。医療債務・破産研究の数字は調査手法により幅があり、本文では出典と論争の存在を明記しました。本記事は制度比較の情報提供であり、特定の政策の是非を主張するものではありません。

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公開日:2026年08月03日 / 執筆:みんなの税金 編集部

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