最終更新:2026年9月1日/本記事は金融庁が2026年8月31日に公表した「令和9(2027)年度 税制改正要望について」および同要望項目の資料をもとに作成しています。ここで扱うのはあくまで「要望」であり、決定した制度ではありません。実際に実現するかどうかは、12月の与党税制改正大綱と翌年の法改正で決まります。
先に結論から。金融庁が2026年8月31日、令和9年度の税制改正要望を公表しました。家計に関係が深いのは3つです。①NISAの非課税保有限度額(1,800万円)を、売却した年のうちに復活させること。いまは翌年まで待つ必要があります。②23歳未満の子がいる世帯の生命保険料控除の2万円上乗せを恒久化すること。いまは令和8年・9年限りの時限措置です。③デリバティブ取引や預貯金まで損益通算の範囲を広げること。この記事では、公表資料そのものから「何が要望され、いつ決まるのか」を整理します。
金融庁が出した要望は3本柱+その他
各省庁は毎年8月末までに、翌年度の税制改正の要望を財務省へ提出します。金融庁の令和9年度の要望は、大きく3つの柱で整理されています。
| 柱 | 要望項目 | 共同要望 |
|---|---|---|
| 1. 「資産運用立国」の推進 | NISAの利便性向上等 | — |
| 銀行等の投資専門子会社による中小企業への出資に関する特例措置 | 経済産業省 | |
| 金融所得課税の一体化(損益通算範囲の拡大) | 経済産業省・農林水産省 | |
| 2. 子育て世帯への支援 | 生命保険料控除制度の拡充の恒久化等 | 農林水産省・厚生労働省・経済産業省 |
| 3. 金融イノベーションの推進 | 特定信託受益権(信託型ステーブルコイン)に係る所要の措置 | — |
このうち、個人の家計に直接関係するのはNISAと生命保険料控除、そして金融所得課税の一体化です。順に見ていきます。
NISA:売った枠が「その年のうちに」戻る
いちばん注目度が高いのがこれです。NISAには生涯で1,800万円という非課税保有限度額(簿価ベース)があり、保有商品を売却するとその簿価分の枠は再利用できます。ただし再利用できるのは翌年からで、売った年のうちにその枠を使い直すことはできません。
年間投資枠の内訳は、つみたて投資枠120万円・成長投資枠240万円で合計360万円です。要望が実現してもこの年間360万円という上限そのものは変わりません。あくまで「売った分をその年のうちに再利用できるようになる」という話です。
この要望は今年が初めてではありません。金融庁の資料には【継続要望】と明記されています。つまり過去にも同じ要望を出し、まだ実現していない項目です。金融庁は資料の注記で、年間投資可能額が360万円以下となり得るのは令和11年以降であるとしたうえで、投資家の予見可能性を高め、金融機関のシステム対応に十分な期間を確保するには今年度の改正が必要だと説明しています。「急ぐ理由」を先回りして書いているのは、裏を返せばそれだけ通りにくい項目だということでもあります。
つみたて投資枠の要件も整備を要望
あわせて、つみたて投資枠で買える商品の要件を整えることも要望されています。現状、指定指数に連動しないETFについては要件が未整備で、対象になっていません。金融庁はETF市場の環境整備が進んだことを踏まえ、対象とすべきETFの要件を整備するとしています。実現すれば、つみたて投資枠で選べるETFが広がる可能性があります。
NISAそのものの使い方は新NISAの活用法で、確定申告との関係は株とNISAの確定申告で整理しています。
生命保険料控除:子育て世帯の2万円上乗せを恒久化
2つめは、23歳未満の扶養親族がいる世帯向けの措置です。現在、一般生命保険料控除の所得控除限度額(所得税で4万円)に2万円が上乗せされて6万円になっています。ただしこれは令和8年分・9年分の所得税に限った時限措置で、そのままなら2年で終わります。金融庁はこれを恒久化するよう要望しました。
| 控除の種類 | 所得税の限度額 | 住民税の限度額 |
|---|---|---|
| 一般生命保険料控除(23歳未満の扶養親族がいる場合) | 6万円(4万円+2万円) | 2.8万円 |
| 介護医療保険料控除 | 4万円 | 2.8万円 |
| 個人年金保険料控除 | 4万円 | 2.8万円 |
| 合計の所得控除限度額 | 12万円 | 7万円 |
金融庁「令和9年度税制改正要望項目」より。上乗せの対象は一般生命保険料控除のみで、合計の限度額(所得税12万円・住民税7万円)は変わらない。
見落としやすい注意点が1つあります。資料には「一時払生命保険については、本制度の控除の適用対象から除外」と明記されています。保険料をまとめて一度に払うタイプの生命保険は、この上乗せの対象外という整理です。控除額の計算方法そのものは生命保険料控除の計算方法で解説しています。
なお、上乗せ額は所得税で2万円です。2万円戻ってくるという意味ではありません。所得控除なので、実際に減る税額は「2万円×税率」です。所得税率10%の世帯なら年2,000円程度が目安になります。
金融所得課税の一体化:デリバティブと預貯金を損益通算へ
3つめは、損をした商品と利益が出た商品を相殺できる範囲(損益通算)を広げる要望です。現在は上場株式・公募株式投信・特定公社債などの間でしか通算できません。
| 金融商品 | 利子・配当(インカムゲイン) | 売却損益(キャピタルゲイン/ロス) |
|---|---|---|
| 上場株式・公募株式投信 | 申告分離 | 申告分離 |
| 特定公社債・公募公社債投信 | 申告分離(2016年1月から) | 申告分離(2016年1月から) |
| デリバティブ取引 | 申告分離(通算できない) | |
| 預貯金等 | 源泉分離(通算できない) | — |
金融庁は、デリバティブ取引や預貯金等まで損益通算の範囲を広げるよう求めています。ただしこの項目は簡単ではありません。令和8年度の与党税制改正大綱では、デリバティブ取引について「意図的な租税回避行為を防止するための方策等に関するこれまでの検討の成果を踏まえ、総合的に検討する」という表現にとどまっています。租税回避への懸念が残っている、という意味です。
その他の要望にも家計に効くものがある
3本柱のほかにも「その他の要望項目」が並んでおり、この中に個人向けのものが混ざっています。
| 項目 | 方向 |
|---|---|
| 死亡保険金の相続税非課税限度額の引上げ | 減税 |
| 上場株式等の相続税に係る見直し | 減税(見直し) |
| 相続財産に係る譲渡所得の課税の特例(取得費加算)に係る所要の措置 | 見直し |
| 民法の改正(遺言制度の見直し)に伴う所要の措置〔法務省主担〕 | 制度対応 |
| 結婚・子育て資金一括贈与に係る贈与税の非課税措置の廃止〔こども家庭庁主担〕 | 廃止 |
| 店頭デリバティブ取引の証拠金に係る利子の非課税措置の恒久化及び拡充 | 減税 |
死亡保険金の相続税非課税限度額は、現在「500万円×法定相続人の数」です。この枠の引き上げが要望項目に入っています。生命保険を相続対策に使っている世帯には影響が大きい項目です。
目を引くのは結婚・子育て資金一括贈与の非課税措置の「廃止」です。この制度は18歳以上50歳未満の人が直系尊属から1,000万円まで非課税で受け取れるもので、適用期限は2027年3月31日。要望に上がっているのは延長ではなく廃止です。税制改正要望は減税のお願いが大半を占めるなかで、廃止=負担が増える方向の要望はめずらしいものです。詳しくは結婚・子育て資金の一括贈与はなぜ廃止の方向なのかで扱っています。
要望はどこまで通るのか
ここまで見てきたのはすべて「要望」です。各省庁が8月末に出した要望は、秋の与党税制調査会での議論を経て、12月の与党税制改正大綱で採否が決まります。そして翌年の通常国会で法改正されて初めて実施されます。
これからのスケジュール
2026年8月末 … 各省庁が要望を提出(← いまここ)
2026年秋 … 与党税制調査会で議論
2026年12月 … 与党税制改正大綱で採否が決まる
2027年通常国会 … 法改正
要望がそのまま通ることは多くありません。特にNISAの当年中復活は【継続要望】、つまり過去に出して実現しなかった項目です。「金融庁が要望した」というニュースを見て、決まったことのように受け取らないほうが安全です。要望と決定の見分け方は税制改正要望の読み方で詳しく整理しています。
年内の行動としては、要望を前提にした判断は避けるのが基本です。たとえば「来年から売却枠がその年に戻るはずだから、いま売っておこう」といった動き方は、要望が通らなかった場合に枠を1年分遊ばせることになります。12月の大綱を見てから動いても遅くない項目がほとんどです。
今日やること
- 12月の与党税制改正大綱の時期をカレンダーに入れる。要望の採否はここで決まります。NISAや生命保険料控除に関係する世帯は、この時点の報道を確認すれば十分です。
- 23歳未満の子がいる世帯は、今年の年末調整で生命保険料控除の上乗せを取りこぼさない。2万円の上乗せは令和8年分から適用されています。恒久化されるかは未定ですが、今年と来年は確実に使えます。
- 結婚・子育て資金一括贈与を検討している場合は、適用期限(2027年3月31日)を確認する。延長ではなく廃止が要望されています。使うつもりがあるなら前倒しの検討が必要です。
よくある質問
NISAで売った枠は、来年から本当にその年のうちに使えるようになりますか。
決まっていません。これは金融庁が財務省へ出した「要望」で、しかも資料に【継続要望】と明記されているとおり、過去にも要望して実現していない項目です。採否が決まるのは2026年12月の与党税制改正大綱で、実施はさらにその後の法改正を経てからになります。
実現した場合、NISAの年間投資枠360万円も増えますか。
増えません。要望は「売却した分の非課税保有限度額を当年中に復活させる」というもので、年間投資枠(つみたて投資枠120万円+成長投資枠240万円=360万円)の上限そのものを引き上げる内容ではありません。復活した枠を使えるのも、あくまで年間投資枠の範囲内までです。
生命保険料控除の2万円上乗せは、いま使えますか。
使えます。23歳未満の扶養親族がいる場合、一般生命保険料控除の所得控除限度額が所得税で4万円から6万円になります。ただし令和8年分・9年分の所得税に限った時限措置で、金融庁はこれを恒久化するよう要望した段階です。なお一時払生命保険はこの上乗せの対象から除外されています。
2万円上乗せされると、税金は2万円安くなりますか。
いいえ。これは所得控除なので、課税される所得が2万円減るという意味です。実際に減る税額は「2万円×適用される税率」で、所得税率10%の方なら年2,000円程度が目安になります。住民税側の限度額(2.8万円)は変わりません。
結婚・子育て資金の一括贈与は、いつまで使えますか。
現行の適用期限は2027年3月31日です。今回の要望では延長ではなく「廃止」が挙げられており(こども家庭庁主担)、期限どおり終了する方向で検討されています。18歳以上50歳未満の方が直系尊属から1,000万円まで非課税で受け取れる制度で、利用を考えている場合は期限を前提に判断する必要があります。
参考リンク(出典)
本記事は公表された税制改正要望の内容を整理したもので、決定した制度の解説ではありません。要望の採否は与党税制改正大綱および法改正で決まります。個別の投資判断・税務判断については、金融機関・税務署・税理士等の専門家にご確認ください。



