個人向け国債は相続税非課税になる?国債NISA法案の中身と現在地

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カテゴリ:制度・ニュース

最終更新:2026年8月19日/本記事は国税庁・財務省・国民民主党の公表資料(2026年8月時点)を確認して作成しています(出典は本文中と末尾に記載)。制度は未確定のため、必ず最新の公式情報をご確認ください。

先に結論から。「個人向け国債が相続税の対象から外れる」という話は、まだ決まっていません。2026年7月10日に国民民主党が参議院へ提出した「国債NISA法案」で相続税非課税に触れられていますが、それは法案が直ちに非課税にする条文ではなく、政府に検討を求める「検討条項」です。しかも対象は「NISA口座で買った国債」に限られる案で、仮に実現してもNISAの生涯投資枠が事実上の上限になります。「無制限に相続税がゼロになる」という話ではありません。

いま何が起きているのか

2026年に入って、政府・与野党の双方から「個人向け国債をもっと個人に買ってもらうため、税制を優遇しよう」という案が相次いで出ています。時系列で整理すると次のとおりです。

時期できごと
2026年6月自民党内で個人向け国債の相続税を軽減する案が浮上。国民民主党は「NISAの対象に加える」案を主張(日本経済新聞報道)
2026年7月10日国民民主党が参議院に「国債NISA法案」を提出(正式名称は後述)
2026年7月片山さつき財務大臣が「個人向け国債の商品性見直しや新商品設計を含めた魅力向上の具体化を急いでいる」と発言
2026年7月下旬相続税の軽減案に対し「富裕層の節税色が強い」との批判が報じられる(日本経済新聞)
2026年8月現在いずれも決定した制度ではない。年末の令和9年度税制改正の議論待ち

背景にあるのは、国債を誰が持つかという問題です。日本銀行が国債の買入れを縮小していく方向にあるなか、新規に発行する国債と借換債を誰が安定的に保有するのかが課題になっています。家計は国債をほとんど持っておらず、ここを増やしたいというのが政策側の動機です。個人向け国債の発行額自体は金利上昇を受けて増えており、追い風はあります。

法案の中身:非課税は「検討」にとどまる

国民民主党が2026年7月10日に参議院へ提出した法案の正式名称は「少額投資非課税制度における国債に係る所得に対する所得税の非課税に関する措置等に関する法律案」です。提出者は玉木雄一郎議員ほか5名。

ここが誤解されやすいところなので、丁寧に分けます。

法案が措置しようとしているもの

NISAの対象商品に国債を追加し、NISA口座で保有する国債の利子・譲渡所得を非課税にする。

法案が「検討」を求めるにとどまるもの

保有者が死亡した場合の相続税の非課税化。法案そのもので相続税がゼロになるわけではなく、政府に検討を促す位置づけ。

つまり「法案が通れば個人向け国債の相続税がゼロになる」わけではありません。仮にこの法案が成立しても、相続税の扱いを実際に変えるには、そのあとで相続税法の改正が別途必要です。年末の税制改正大綱に盛り込まれ、翌年の法改正を経て、というのが通常の流れになります。

そもそもこの法案は野党提出の議員立法です。政府は慎重な姿勢を示しており、成立が確約されているわけではありません。「提出された」と「成立した」はまったく別だという点は押さえておいてください。

今の個人向け国債は、相続税でどう評価されるのか

将来の話をする前に、現在のルールを正確に押さえます。ここは国税庁が明確な取扱いを示しています。

個人向け国債の相続税評価額

額面金額 + 経過利子相当額 − 中途換金調整額

国税庁は、個人向け国債は発行から原則1年経過後にいつでも中途換金でき、そのときいくらになるかが把握できる状態にあることから、中途換金した場合に受け取れる金額で評価するとしています(国税庁「個人向け国債の評価」)。上場している利付公社債の取引価格が把握できるのと実質的に変わらない、という理屈です。

差し引かれる「中途換金調整額」は、財務省が次のように定めています。

中途換金調整額

直前2回分の各利子(税引前)相当額 × 0.79685

0.79685という係数は、利子の受取時に20.315%の税金が差し引かれていることに対応したものです。

実際に計算してみる

変動10年、額面1,000万円、直近の適用利率が年0.6%(半年ごとの利子は税引前で3万円)の個人向け国債を相続したケースで考えます。前回の利払いから3か月が経過していたとします。

項目金額
額面金額10,000,000円
経過利子相当額(3万円 × 3か月/6か月)+15,000円
中途換金調整額(3万円 × 2回 × 0.79685)−47,811円
相続税評価額9,967,189円

額面1,000万円に対して評価額は約996.7万円。現行でも額面をわずかに下回りますが、その差は0.3%程度で、これを相続税対策と呼べる規模ではありません。預貯金がほぼ額面どおり評価されるのと比べても、実質的な差はないと考えてください。

なお、口座名義人が亡くなった場合は、発行から1年経っていなくても相続人による中途換金が可能です(災害で被害を受けた場合も同様)。相続直後に現金化したいときに使えるルールです。

実現したら「最高の相続税対策」になるのか

ここが読者のいちばん知りたいところだと思います。結論から言えば、設計次第で効果は大きく変わり、現在出ている案のままなら「最高」と呼べるほどではありません。理由は上限にあります。

上限がNISA枠なら、効果は限定的

国民民主党の案は「NISA口座で購入した国債」が対象です。NISAには生涯投資枠1,800万円という上限がありますから、この枠内の国債だけが非課税になるなら、相続税の非課税枠としては最大でも1,800万円相当ということになります。

これを既存の相続税対策と並べてみます。

手段非課税・減額の枠根拠
生命保険金の非課税枠500万円 × 法定相続人の数国税庁 No.4114
死亡退職金の非課税枠500万円 × 法定相続人の数国税庁 No.4117
小規模宅地等の特例(居住用)330m2まで評価額を80%減額国税庁 No.4124
暦年贈与の基礎控除年110万円(相続前7年は持ち戻し)国税庁 No.4161
個人向け国債の非課税(仮に実現した場合)NISA枠内なら最大1,800万円相当未定・検討段階

法定相続人が3人いれば生命保険だけで1,500万円の非課税枠があり、自宅があれば小規模宅地等の特例のほうがはるかに効きます。1,800万円という枠は決して小さくありませんが、既存の手段を置き換えるものではなく、積み増しの選択肢が1つ増えるという位置づけが実態に近いでしょう。

仮に上限なしなら、話は変わる

一方、自民党内で議論されているとされる「相続税の軽減」が、NISA枠と関係なく個人向け国債全体を対象にするものであれば、影響はまったく違ってきます。現金や預金を国債に置き換えるだけで課税対象が減ることになり、金額の大きい資産家ほど効果が大きくなるからです。

まさにこの点が、次に述べる批判の中心になっています。

なぜ批判があるのか

この案には、報道でも専門家からも相応の批判が出ています。制度の是非を当サイトが断じることはしませんが、論点は正確に知っておく価値があります。

  1. 富裕層優遇になりやすい。相続税を実際に納めるのは、基礎控除(3,000万円+600万円×法定相続人の数)を超える資産を持つ層です。相続税の優遇は、その層にしか届きません。
  2. 他の相続財産との公平性。同じ金額でも、預金や株式で持っていれば課税され、国債で持っていれば非課税、という差が生じます。資産の種類で税負担が変わることの説明が求められます。
  3. NISAの理念との整合性。NISAは「貯蓄から投資へ」を掲げた制度です。元本保証に近い国債を対象に加えることが、その趣旨に沿うのかという指摘があります。
  4. 税収の減少。非課税の範囲が広がれば、その分の相続税収は減ります。国債の安定消化と税収減のどちらを取るかという判断になります。

逆に推進側の理屈もはっきりしています。日本銀行が国債保有を減らしていくなかで、値動きに一喜一憂せず長期で持ち続ける家計の保有を増やすことは、国債市場の安定に資するという主張です。主要7か国のうち個人向け国債を発行している国のなかで、日本だけが優遇税制を持たないという指摘もあります。

今後のスケジュールと、実現の可能性

税制の変更は、次の流れで進みます。個人向け国債の相続税をめぐる話も、この線路の上にあります。

  1. 8月末:各省庁が翌年度の税制改正要望を提出する
  2. :与党の税制調査会で議論
  3. 12月:与党税制改正大綱が決定。ここに載って初めて「ほぼ決まり」と言える
  4. 翌年1〜3月:法案が国会で審議・成立
  5. 4月以降:施行

したがって、早くても令和9年度(2027年度)税制改正大綱に盛り込まれるかどうかが最初の関門です。年末の大綱を見るまでは、何も決まっていないと考えるのが正確です。

要望リストの読み方に注意。8月末に出る各省庁の税制改正要望は「お願いのリスト」であって、実現が決まったものではありません。実際、要望に出ていたのに認められず期限を迎えた制度もあれば、要望に無かったのに12月に突然決まった増税もあります。詳しくは令和9年度税制改正要望の読み方で解説しています。

今日やること

  1. 今すぐ動く必要はないと理解する。決まっていない制度に合わせて資産を組み替えるのは順序が逆です。
  2. 自分の家が相続税の対象になるか、基礎控除(3,000万円+600万円×法定相続人の数)で確認する。対象外なら、この改正は関係ありません。
  3. 対象になりそうなら、先に効果が確定している生命保険の非課税枠や小規模宅地等の特例を使い切れているかを確認する。
  4. 年末(12月)の税制改正大綱の報道をチェックする。ここに載らなければ、その年度は動きません。

よくある質問

個人向け国債はもう相続税がかからないのですか。

いいえ。2026年8月時点で、個人向け国債は通常どおり相続税の課税対象です。評価額は「額面金額+経過利子相当額−中途換金調整額」で計算します。非課税化は検討段階の案にすぎず、決まった制度ではありません。

国債NISA法案が成立すれば相続税は非課税になりますか。

なりません。この法案で相続税について書かれているのは、政府に検討を求める「検討条項」です。実際に非課税にするには、そのあとで相続税法の改正が別途必要になります。

今のうちに現金を個人向け国債に換えておけば得ですか。

相続税対策としては、現時点で意味はほとんどありません。現行の評価額は額面の0.3%程度しか下がらず、預貯金との差はごくわずかです。制度が変わる前提で資産を動かすのは、実現しなかったときのリスクを負うことになります。

実現した場合、いくらまで非課税になりそうですか。

国民民主党の案はNISA口座で買った国債が対象なので、NISAの生涯投資枠1,800万円が事実上の上限になると考えられます。ただし制度設計は未定で、対象範囲も上限も今後の議論次第です。

名義人が亡くなったとき、1年経っていなくても換金できますか。

できます。通常は発行から1年経過後でないと中途換金できませんが、保有者が亡くなった場合は相続人による中途換金が認められています。一定の災害で被害を受けた場合も同様です。

参考リンク

本記事は一般的な情報提供であり、個別の税務判断については税務署または税理士にご確認ください。制度は未確定であり、今後の議論により内容が変わる可能性があります。

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公開日:2026年08月19日 / 執筆:みんなの税金 編集部

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