売上が申告に入っていなかった。この一点だけを見れば同じなのに、一方は重加算税を課され、もう一方は重加算税を取り消されました。前者は追徴約2,700万円。後者は税務署が課した重加算税が、国税不服審判所によって覆っています。分かれ目はどこにあったのか。答えは「金額」でも「悪質さの印象」でもなく、調査の現場で作られた1通の書類でした。税務調査ファイルの第1回は、公的機関が公表している2つの実例を突き合わせて、重加算税の境界線がどこに引かれているのかを読みます。
ケースA:経費の書類は残し、売上の書類だけ捨てた
まず国税庁が公表している調査事例から。副業の転売で無申告だった人の事案です。
調査対象者には給与収入があり、それとは別にゲーム機器やスマートフォンなどの転売による収入がありました。各種の資料情報から給与以外の収入があると想定されたにもかかわらず所得税の申告がなかったため、調査が行われています。
調査の場で本人から、転売による収入があるが申告していない旨の説明がありました。調査担当職員は本人のパソコンとスマートフォンから、直近の転売に係る取引先とのやり取りや請求書等のデータを把握します。
そこで過去の書類の保存状況を確認したところ、決定的な事実が出てきました。経費に係る書類は「申告時に必要となる可能性がある」と考えて保存していたのに、売上に係る書類はすべて破棄していたのです。
売上の資料が残っていないため、取引先への反面調査によって転売の収入が把握されました。加えて消費税の課税事業者に該当することとなり、消費税も課税されています。そして書類の破棄が隠蔽行為に該当するとして、重加算税が賦課されました。
ここで注目してほしいのは、破棄したのが売上の書類「だけ」だったという点です。経費の書類は「申告のときに要るかもしれない」と考えて残していた。つまりこの人は書類を選り分けていた。この一点が、後で重い意味を持ちます。
ケースB:同じ「売上が計上されていない」で、重加算税が取り消された
次は、税務署の処分に納得できずに国税不服審判所へ審査請求をして、重加算税が覆った事案です。
古物商を営む法人です。設立は平成30年、取締役は代表者1人だけ。この会社の名義の預貯金口座3つに、古物等の売上代金が入金されていました。ところがその入金が総勘定元帳に計上されていなかったのです。
調査を受けた会社は、令和6年6月7日に法人税・地方法人税・消費税等の修正申告書を提出しました。ここまではケースAと同じ「売上が申告に入っていなかった」事案です。
その約3週間後の令和6年6月26日付で、税務署は隠蔽の事実があったとして重加算税の賦課決定処分をします。会社側は「隠蔽も仮装もしていない、単なる過失だ」として、令和6年9月24日に審査請求をしました。
会社の説明は、代表者が多忙で会計仕訳の入力を失念したこと、従業員である代表者の弟が入力の基となる取引明細の一部を渡していなかったこと、税理士法人の事務員との確認作業に行き違いが生じたこと、というものでした。
そしてちょうど1年後の令和7年9月24日、国税不服審判所は重加算税の賦課決定処分を取り消しました。売上の計上漏れがあったこと自体は動きませんが、それは過少申告加算税・無申告加算税で足りる、という判断です。
分かれ目は「金額」でも「悪質さの印象」でもない
2つを並べると、事実関係の骨格はよく似ています。売上が申告に入っていない。調査で発覚した。修正申告をした。それでも結論は正反対でした。
境界線は条文にあります。重加算税を定めた国税通則法68条は、「隠蔽し、又は仮装し」たところに基づいて申告書を提出していたときに課すと規定しています。そしてこの2つの語の意味は、裁決の中で次のように示されています。
裁決が示した法令解釈
「隠蔽し」とは、課税標準等又は税額等の計算の基礎となる事実について、これを隠匿あるいは故意に脱漏することをいう。
「仮装し」とは、所得、財産、あるいは取引上の名義等に関し、あたかもそれが真実であるかのように装う等、故意に事実をわい曲することをいう。
どちらにも「故意に」が入っています。つまり売上の計上漏れがあっただけでは重加算税にはならない。漏れていた事実に加えて、それが意図的だったことが必要です。そして意図は目に見えないので、行為から立証するしかありません。
ケースA:故意が認定された理由
経費の書類は「申告に要るかもしれない」と考えて保存し、売上の書類だけを選んで破棄した。この選別そのものが、売上を申告から外す意図を示す行為として評価されました。書類の破棄は、単なる記録の不備ではなく積極的な行為です。
ケースB:故意が認定されなかった理由
通帳や取引明細は実際に税理士法人へ渡っていたと認められ、会計仕訳は代表者だけでなく税理士法人の事務員も入力していました。税理士自身も審判所に対し、正しい売上を計上できる資料は受け取っていたが担当者が申告に反映していなかった可能性がある旨を述べています。
ケースAでは「隠すために動いた形跡」があり、ケースBでは「資料は渡っていて、途中で落ちた形跡」しかなかった。重加算税を分けたのは、悪質さの印象ではなく、故意を裏づける具体的な行為があったかどうかです。
決め手になったのは、調査の場で作られた1通の書類だった
ここからがケースBの核心です。税務署は重加算税の根拠として、ある文書を証拠に挙げていました。質問応答記録書です。
令和6年3月25日、調査担当職員は国税通則法74条の2(質問検査権)に基づいて代表者に質問を行い、その質問応答の要旨を記録した文書を作成しました。そこに記載されていた代表者の申述が、次のものです。
質問応答記録書に記載されていた申述
「私の判断で意図的に売上計上をしなかったわけではありませんが、(中略)ランダムで私が売上に計上していないようにとらえられても仕方がありません。売上に計上しなかったのは、税金が多額に発生すると思ったからで納める税金を抑える目的で売上に計上しませんでした。」
読み返してみてください。前半は「意図的にやったわけではない」と故意を否定しています。ところが後半では「税金を抑える目的で計上しなかった」と故意を肯定している。1つの申述の中で、正反対のことを言っています。
審判所はこの点を次のように扱いました。故意を否定する内容が録取されている直後に、故意を肯定する内容が録取されており、明らかに相矛盾する内容が記録されている。これ自体が申述の信用性に疑いを生じさせる。そのうえで、代表者の申述の経過や、なぜ内容が変わったのかという理由が何も記録されていないことを指摘し、故意を肯定する内容を本当に述べたのかは相当疑わしい、と判断しました。
結果として、この質問応答記録書は証拠として採用されませんでした。そして審判所は、記録書のほかに故意を裏づける証拠はないと認定しています。重加算税の根拠は、この1通の書類にほぼ全面的に依存していたわけです。
この事案が覆ったのは、記録書が矛盾したまま作られていたからです。逆に言えば、矛盾のない形で「税金を抑える目的で計上しませんでした」とだけ記録され、それに署名していたら、結論は違っていた可能性が高い。この裁決は「争えば重加算税は覆る」という話ではなく、「調査の場で作られた記録が、後の税額を決める」という話です。
質問応答記録書とは何か
調査の現場でこれほど重い意味を持つ文書ですが、位置づけは意外なところにあります。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 作る人 | 調査担当職員。納税者が書くものではありません |
| 根拠となる質問の権限 | 国税通則法74条の2以下の質問検査権 |
| 文書そのものの法令上の定め | 国税通則法には「質問応答記録書」という文書の定めも、署名押印を義務づける規定もありません |
| 役割 | 調査で聞き取った内容を証拠として残すもの。重加算税や更正処分の根拠に使われます |
| 後から効いてくる場面 | 審査請求・訴訟で、課税庁側が「故意があった」ことを立証する主要な証拠になります |
帳簿書類の提示・提出については、正当な理由なく拒めば罰則の定めがあります(国税通則法128条)。しかし質問応答記録書への署名押印は、これとは性質が違います。条文上、署名を義務づける規定がありません。
署名する前に、読み上げてもらうのではなく自分の目で全文を読んでください。確認する点は3つです。
- 自分が言っていないことが書かれていないか。要旨をまとめる過程で、ニュアンスが断定に変わることがあります。
- 前半と後半で矛盾していないか。ケースBはまさにここで争われました。「意図的ではない」と「目的があった」が同居していないかを見てください。
- 訂正を申し出て、その場で直してもらえるか。違う部分は具体的に指摘します。直らないまま署名すると、その内容が証拠になります。
納得できない内容であれば、署名しないという選択もあります。ただし、署名しなかったこと自体が有利に働くわけではなく、記録書は署名がなくても作成されます。署名の可否より、記録の中身を正確にすることのほうが重要です。
ただし、争えば覆るという話ではない
ケースBだけを読むと「税務署の処分は争えば覆る」と受け取れてしまうので、全体の数字を置いておきます。
- 納税者の請求が何らかの形で認められた件数:693件(全部認容171件+一部認容522件)
- 認容割合:17.9%
つまり8割以上は認められていません。ケースBは残り2割弱に入った事案です。しかも審査請求から裁決まで、この事案では1年かかっています。その間、争っている税額は納付するか、猶予の手続をとることになります。
また、重加算税がなくなっても税金が消えるわけではありません。ケースBでも、重加算税が過少申告加算税・無申告加算税に置き換わっただけで、本税と延滞税は残っています。取り消されたのは「重加算税相当額のうち、通常の加算税を超える部分」です。
争うかどうかを決める前に確認すべき期限もあります。処分に不服がある場合は、処分の通知を受けた日の翌日から3か月以内に、税務署長への再調査の請求または国税不服審判所長への審査請求をする必要があります。この期限を過ぎると争えません。調査の流れと選ばれ方は税務調査のリアルに、申告をしていない状態からの立て直しは無申告からの復帰にまとめています。
2つの事案から持ち帰れること
| よくある理解 | 2つの事案が示していること |
|---|---|
| 売上の計上漏れが見つかったら重加算税 | 重加算税には「故意」(隠蔽・仮装)が要件です。漏れていただけでは要件を満たしません |
| 金額が大きいほど重加算税になる | ケースBは重加算税が取り消されています。金額ではなく行為で判断されます |
| 書類を捨てるのは「保管が雑」なだけ | ケースAでは売上の書類だけを選んで破棄したことが隠蔽行為と評価されました |
| 調査中の受け答えは記録に残らない | 質問応答記録書として文書化され、後の処分の主要な証拠になります |
| とりあえず署名しておけばいい | ケースBは記録書の矛盾で覆りました。中身が税額を左右します |
最後にケースAへ戻ります。この人は経費の書類を「申告に要るかもしれない」と考えて残していました。申告するつもりがあったから、経費の資料を取っておいたとも読めます。それでも売上の資料を捨てた一点で、隠蔽と評価されました。書類の整理は、思っているより雄弁に意図を語ります。
今日やること
- 売上側の資料が、経費側と同じだけ残っているか確認する。請求書の控え、入金明細、プラットフォームの取引履歴。経費のレシートだけが几帳面に残っていて売上側が薄い状態は、ケースAとまったく同じ形です。
- 事業用の口座をすべて書き出す。ケースBは会社名義の口座3つのうち一部が帳簿から落ちていました。使っていない口座も含めて一覧にし、帳簿と突き合わせてください。落ちやすいのは「入金専用にしている口座」です。
- 「署名する前に全文を自分で読む」とだけ覚えておく。調査の場で思い出せるのはこれくらいです。矛盾した記録に署名しないことが、いちばん効きます。
ほかのアクションは手取りアップ・アクションリストへ。
よくある質問
Q. 売上の計上漏れが見つかったら、必ず重加算税になりますか。
A. なりません。重加算税は国税通則法68条で「隠蔽し、又は仮装し」たところに基づいて申告書を提出していた場合に課されるもので、「隠蔽し」とは事実を隠匿あるいは故意に脱漏すること、「仮装し」とは故意に事実をわい曲することと解されています。どちらも故意が要件です。計上漏れがあった事実だけでは要件を満たさず、通常は過少申告加算税または無申告加算税になります。
Q. 質問応答記録書に署名しなければいけませんか。
A. 国税通則法には質問検査権(74条の2以下)の定めはありますが、質問応答記録書という文書や、それへの署名押印を義務づける規定はありません。帳簿書類の提示・提出を正当な理由なく拒んだ場合の罰則とは性質が異なります。ただし署名しなくても記録書は作成されるため、署名の可否より、記載内容が自分の説明と一致しているかを確認することのほうが重要です。
Q. 署名する前に、どこを見ればいいですか。
A. 3点です。自分が言っていないことが書かれていないか、前半と後半で矛盾していないか、違う部分を指摘してその場で訂正してもらえるか。本記事のケースBでは、故意を否定する内容の直後に故意を肯定する内容が記録されており、審判所はその矛盾を理由に記録書の信用性を否定しました。読み上げを聞くだけでなく、自分の目で全文を読んでください。
Q. 書類を捨てただけで隠蔽になるのですか。
A. 国税庁が公表している調査事例では、経費に係る書類は申告時に必要になる可能性があると考えて保存していた一方、売上に係る書類はすべて破棄していたケースで、書類の破棄が隠蔽行為に該当するとして重加算税が賦課されています。単に保管が雑だったのではなく、売上側だけを選んで処分していた点が評価されたと読めます。
Q. 重加算税に納得できない場合、争えば取り消されますか。
A. 取り消される保証はありません。令和6年度の審査請求で納税者の請求が何らかの形で認められたのは693件(全部認容171件、一部認容522件)で、認容割合は17.9%です。8割以上は認められていません。また本記事のケースBでは審査請求から裁決まで1年かかっています。争う場合は、処分の通知を受けた日の翌日から3か月以内に再調査の請求または審査請求を行う必要があります。
Q. 重加算税が取り消されると、税金は戻ってきますか。
A. 全額は戻りません。本記事のケースBで取り消されたのは、重加算税のうち過少申告加算税相当額または無申告加算税相当額を超える部分です。売上の計上漏れがあったこと自体は覆っておらず、本税と延滞税、そして通常の加算税は残ります。重加算税が「通常の加算税に置き換わった」と理解するのが正確です。
参考リンク(出典)
本記事の2つの事案は、いずれも公的機関が匿名化して公表している資料に基づいています。国税不服審判所の裁決は著作権法13条3号により権利の目的とならず、同所ウェブサイトのコンテンツは「公共データ利用規約(第1.0版)」に準拠しています。国税庁の報道発表資料は、著作権法32条2項により説明の材料として利用しています。
※ 本記事は一般的な情報提供を目的としており、特定の対応を推奨するものではありません。重加算税の賦課要件を満たすかどうかは個別の事実関係によって判断されます。実際の対応は税務署または税理士にご相談ください。裁決は個別の事案についてのものであり、同種の事案で同じ結論になることを保証するものではありません。







