年金の繰上げ・繰下げ何歳が得?損益分岐と手取りで変わる本当の分岐点

年金の繰上げ・繰下げ|本当の損益分岐は何歳?

年金は60歳から75歳まで、受給開始を自分で選べます。早くもらえば月0.4%ずつ減り(最大−24%)、遅らせれば月0.7%ずつ増えます(最大+84%)。「何歳まで生きれば得?」の答えは、額面なら70歳繰下げで81歳11か月。ただし税金と社会保険料を引いた「手取り」ベースだと分岐は2〜3年後ろにずれるのがこの問題の本当の核心です。加給年金の落とし穴まで含め、中立的に整理します。

数字で見る要点

繰上げ:月−0.4%(60歳開始で−24%・昭和37年4月2日以降生まれ)/繰下げ:月+0.7%(75歳開始で+84%)[日本年金機構]
② 額面の損益分岐は、60歳繰上げ→80歳10か月までに死亡なら得/70歳繰下げ→81歳11か月以上生きれば得/75歳繰下げ→86歳11か月以上で得。
③ ただし手取りでは分岐が後ろへずれます。増えた年金には所得税・住民税・国保/後期高齢者・介護保険料がかかり、実質の分岐は2〜3年遅くなるのが通例。
④ 繰上げは一生取り消せず、障害年金の道も閉ざします。繰下げ待機中は加給年金(年約40万円)がもらえないため、年下配偶者がいる人は「厚生年金は65歳で受給・基礎だけ繰下げ」が定石。
⑤ 65歳の平均余命は男性約19年・女性約24年。平均的には繰下げが有利だが、これは損得より「長生きリスクへの保険」と捉えるのが本質です。

年金・老後

増減率と損益分岐の早見表

受給開始増減率月15万円の人なら額面の損益分岐(65歳開始との比較)
60歳(繰上げ)−24%11.4万円80歳10か月より長生きすると損
63歳(繰上げ)−9.6%13.6万円約81歳
65歳(基準)±015.0万円
68歳(繰下げ)+25.2%18.8万円約79歳11か月以上で得
70歳(繰下げ)+42%21.3万円81歳11か月以上で得
75歳(繰下げ)+84%27.6万円86歳11か月以上で得

増額・減額は一生続きます。なお65歳時点の平均余命は男性約19年(84歳)・女性約24年(89歳)なので、「平均まで生きる」前提なら70歳繰下げはプラス圏です(年金の損得検証も参照)。

本当の分岐は「手取り」で考える

  • 年金には雑所得として所得税・住民税がかかり、国民健康保険/後期高齢者医療・介護保険料も年金額に応じて上がります。繰下げで額面が42%増えても、手取りの増加は3割前後にとどまることが多く、損益分岐は額面より2〜3年後ろ(70歳繰下げなら84〜85歳ごろ)にずれるのが通例です。
  • 住民税非課税の境目(単身で年金155万円前後など)をまたぐと、医療・介護の自己負担まで連動して変わるため、「ちょい繰下げで非課税ラインを超える」のが最も損な帯になることも。
  • 逆に働きながらの繰下げは好相性です。在職中は給与があるので年金を待機しやすく、退職後の無収入期間に増えた年金を受け取る設計が合理的です。

見落とされる4つの落とし穴

  • (1) 加給年金が止まる:年下の配偶者がいる人が厚生年金を繰り下げると、待機中は加給年金(年約40万円・配偶者が65歳になるまで)が支給されず、増額もされません。→「老齢厚生年金は65歳から受給、老齢基礎年金だけ繰下げ」という分割技が定石です(基礎・厚生は別々に繰下げ可能)[日本年金機構]
  • (2) 繰上げは取り消せない:減額は一生。さらに繰上げ後は障害基礎年金の請求や国民年金の任意加入ができなくなるなど、健康リスクへの備えを失います[日本年金機構]
  • (3) 遺族年金は増えない:繰下げで増やした分は、配偶者の遺族厚生年金の計算には反映されません(増額前の額がベース)。「自分の長生き」にしか効かない点は設計上の重要ポイント。
  • (4) 5年前みなし繰下げ:70歳以降に「やっぱり一括でほしい」となった場合、5年前に繰下げ申出したものとみなして増額付きで一括受給できる制度(2023年〜)もあります。

タイプ別の現実解

繰下げが向く

  • 65歳以降も働く収入がある/貯蓄で数年つなげる
  • 健康で家系的にも長寿傾向
  • 単身・共働きで加給年金が関係ない → 75歳まで視野
  • 年下配偶者あり → 基礎のみ繰下げ

繰上げ・65歳受給が向く

  • 健康に不安がある/今の生活費が現実に足りない(繰上げは正当な選択)
  • 住民税非課税ラインの内側に収まる人(非課税の給付・軽減が大きい)
  • 運用で増やしたい人(受け取ってNISAで運用する考え方もあるが、終身・増額保証との比較は冷静に)

よくある質問

70歳まで繰り下げたら何歳まで生きれば得ですか?

額面では81歳11か月が損益分岐です。ただし増えた年金にかかる税金・社会保険料を考慮した手取りベースでは84〜85歳ごろにずれるのが通例です。65歳時点の平均余命(男性84歳・女性89歳)から見ると、平均的な寿命なら繰下げはプラス圏といえます。

繰上げ受給はやめた方がいいですか?

一概には言えません。減額(最大24%)が一生続き、障害年金の道も閉ざすデメリットは大きいものの、生活費が現実に不足している場合や健康上の理由がある場合には合理的な選択です。取り消しができないため、申請前に年金事務所で試算を受けることを強くおすすめします。

年下の妻がいる場合、繰下げは損と聞きました。

厚生年金を繰り下げると、待機中は加給年金(年約40万円)が支給されず増額もされないためです。この場合は老齢厚生年金を65歳から受給して加給年金を確保し、老齢基礎年金だけを繰り下げる方法が定石です。

繰下げ待機中に死亡したらどうなりますか?

65歳から死亡月までの本来の年金(増額なし)が未支給年金として遺族に支払われます。また繰下げで増えた分は遺族厚生年金には反映されません。繰下げは「自分が長生きした場合の保険」と割り切るのが正確な理解です。

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データの出典

※損益分岐・手取りの試算は一般的なモデルによる概算です。実際の有利不利は年金額・他の所得・お住まいの保険料率で変わるため、年金事務所の試算やねんきんネットでご確認ください。